「障害者の権利に関する条約」の批准に際しての会長声明

本日、「障害者の権利に関する条約」(以下「権利条約」という。)の批准が、国会で承認された。

 

権利条約は、2006年12月13日、第61回国連総会で採択されたが、政府が権利条約を担保する国内法整備が不十分なまま、批准の承認手続を進めようとしたのに対し、当連合会は2009年3月13日、会長声明を公表し、障がいのある人の基本的人権を保障するシステムの基本的枠組みを構築することを強く求めた。

 

その結果、政府は、同会長声明や当事者団体の意見等を踏まえ、条約締結に先立って国内法令の整備を推進することとし、改正「障害者基本法」、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(以下「差別解消法」という。)などを成立させており、このように国内法整備を経た上で権利条約批准の承認に至ったことについては、当連合会としても評価するものである。

 

しかし、現時点においても、社会的障壁の除去の実施について民間事業者の合理的配慮義務が努力義務にとどまり、国内人権機関も設立されていないなど、国内法整備は、必ずしも十分とは言い難い。権利条約の趣旨を国内において実現させるために、国は、引き続き、次に述べるような国内法整備を行うことが必要である。

 

1 民間事業者の合理的配慮義務を努力義務にとどめている差別解消法8条2項を早急に改正し、法的義務へと移行するべきである。


2 パリ原則に則った政府から独立した国内人権機関の創設が急務である。


3 学校教育法及び同法施行令は未だ、障がいのない子もある子も分け隔てなく共に学ぶことを原則としておらず、あらゆる段階において共生社会を形成するための教育(インクルーシブ教育)を保障するための法整備が必要である。


4 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律などに定める精神障がいのある人に対する強制入院のあり方は見直しが必要であり、また、効果的な権利擁護制度の確立、入院者を減少させるための地域生活の支援の充実が求められる。


5 障害者基本法29条は、司法手続における国の配慮義務を定めているものの、障がいのある人の個別事情に応じた配慮が提供されることを確保するためには、訴訟法において配慮義務を明定する必要がある。


6 障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律が適用対象外としている学校、保育所等、医療機関、官公署等(同法附則2条参照)を適用対象とすべきである。


7 障害支援区分と利用施策・支給量が連動する、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律の仕組みを廃し、障がいのある人の個別事情に即した支援を受ける権利が保障されるようにすべきである。


8 成年後見制度は、精神上の障がいによる判断能力の低下に対し画一的かつ包括的な行為能力制限を定めているが、個々人に応じた必要最小限の制限にとどめ、当事者が可能な限り自己決定しうる環境に配慮した制度に改められるべきである。


当連合会は、国に対して、権利条約の趣旨を国内において実現させるためにも、速やかに上記法改正を行うことを強く求める。また、今後予定されている差別解消法における基本方針、対応要領、対応指針の作成や、障害者の雇用の促進等に関する法律における差別禁止・合理的配慮の提供指針の作成については、権利条約の趣旨を活かしていくよう積極的に働きかけていく所存である。


2013年(平成25年)12月4日

日本弁護士連合会
会長 山岸 憲司