名張毒ぶどう酒事件第7次再審請求第2次特別抗告審決定についての会長声明

本年10月16日、最高裁判所第一小法廷(櫻井龍子裁判長)は、奥西勝氏にかかる名張毒ぶどう酒事件第7次再審請求の第2次特別抗告審につき、抗告を棄却する旨決定した(第2次特別抗告審決定。以下「本決定」という。)。


本件は、1961年(昭和36年)3月、三重県名張市で、農薬が混入されたぶどう酒を飲んだ女性5名が死亡し、12名が傷害を負った事件である。奥西氏は、一審で無罪となったものの、控訴審で逆転死刑判決を受け、最高裁判所で上告が棄却されて、死刑判決が確定していた。当連合会は、1973年(昭和48年)に人権擁護委員会において再審支援のための名張事件委員会を設置し、以来、奥西氏の救済のため、最大限の支援を行ってきた。

 

第7次再審請求の経過は、次のとおりである。

 

2005年(平成17年)4月に請求審・名古屋高等裁判所刑事第1部(小出錞一裁判長)は、犯行に使われた毒物が請求人が当時所持していたニッカリンTとは異なる毒物であることを実証した鑑定等の新規性・明白性を認め、再審開始を決定した。これに対し、検察官の異議申立てにより、2006年(平成18年)12月に同異議審・名古屋高等裁判所刑事第2部(門野博裁判長)が再審開始決定を取り消したが、2010年(平成22年)4月に第1次特別抗告審・最高裁判所第三小法廷は、異議審の判断は、科学的知見に基づく検討をしたとは言えず、その推論過程に誤りがある疑いがあるとして、異議審決定を取り消して、名古屋高等裁判所に差し戻した。

 

しかし、2012年(平成24年)5月25日に、差戻し後の異議審・名古屋高等裁判所刑事第2部(下山保男裁判長)は、検察官も主張しておらず、鑑定人さえ言及していない推論をもって、新証拠について「犯行に用いられた薬剤がニッカリンTではあり得ないということを意味しないことが明らか」として、科学的知見に基づく検討を放棄し、再審開始決定を取り消し、再審請求を棄却した(差戻し後の異議審決定)。同決定は、「疑わしきは被告人の利益に」の原則に反して、再審請求者側に無罪の立証責任を負わせる不当なものであり、請求人・弁護人は最高裁判所に特別抗告をしていた。 


再審請求者側は、同特別抗告審において、事件当時、広く使用されていた「塩析」という抽出方法によって新証拠が補強されることを示す実験結果とともに、差戻し後の異議審決定の仮説を否定する実験結果を新証拠として提出した。


しかしながら、本決定は、当時「塩析」は広く使われていた実験方法であり、当時、三重県衛生研究所が実験にあたり参照した文献に「塩析」が抽出効率を高める方法として記載されているにもかかわらず、「当時の三重県衛生研究所の試験において塩析が行われた形跡はうかがわれず、所論は前提を欠くものである。」と判断し、差戻し後の異議審決定の仮説を弾劾する新証拠については一切検討することなく、差戻し後の異議審決定の仮説を肯定した。本決定は、差戻し後の異議審決定と同様に、先の第1次特別抗告審決定が求めた科学的知見に基づく検討を放棄したものと言わざるを得ない。

 

新証拠の証拠価値を正当に判断すれば、犯行に使用された毒物がニッカリンTであるとする確定死刑判決には合理的疑問が提起されているのであるから、奥西氏が犯人であることについて重大な疑いが生じていることは明らかであり、本決定は正当な判断とは到底認めがたい。

 

当連合会は、改めて提起される第8次再審請求において再審開始が決定されることを期し、今後とも奥西氏が無罪判決を勝ち取り、死刑台から生還するときまで、あらゆる支援を惜しまないことをここに表明する。
 

 

2013年(平成25年)10月18日

日本弁護士連合会
会長 山岸 憲司