警察庁発表の「取調べの録音・録画の試行の検証について」に関する日弁連コメント

2013年(平成25年)7月25日

日本弁護士連合会

 

 

 

警察庁は、2013年7月25日、「警察における取調べの録音・録画の試行の検証について」(以下「今回の検証」という。)を発表した。法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会で取調べの可視化の制度化が具体的な議論となっている現在、このような検証の実施は評価し得るものであり、今後も検証を継続することを望みたい。

 

裁判員裁判対象事件については、2012年4月に試行の範囲を拡大した後、検挙件数3、415件(暫定値)に対し、試行件数が2、637件、実施率は77.2%、本年3月の実施率は91.4%となっており、実施数・実施率は着実に増加している。また、被疑者が取調室に入室する場面からの録画が一部試行され、これが有用であると確認されている。入室からの録画は、今後の一般的取扱いとされるようであり、注目される。

 

実施場面としては、「プレビュー」方式、「ライブ」方式が増え、また、「全ての取調べ時において、録音・録画を実施している事件」も5件あるとされている。しかし、総取調べ時間と総録音・録画時間との差も、少ないものでも4時間、長いものでは31時間以上あり、取調べの全過程の録画とはなっていない。総じて実施時間自体は漸増に過ぎず、平均27分とされている。

 

拡大後の試行に従事した取調官の意見として、「大きな効果がある」23.9%、「ある程度の効果がある」68.4%と録音・録画を有効とする取調官は前回検証に引き続き9割を超えている。もっとも、全過程の録画については、「そうすべきである」が3.4%、「事件によってはそうした方がよい」が36.1%と4割近い肯定的な意見がある一方で、否定的な意見も約5割程度見られ、前回検証との有意な差も見られない。

 

しかし、今後、全過程の録画を経験し、2012年12月に作成された取調べ教本を活用するなどして、心理学的知見に基づく取調べ手法を習得していけば、取調官の意識も変わっていくのではないかと考えられる。

 

知的障がいを有する被疑者については、試行が始まった2012年5月から2013年4月末までの試行件数は967件で、そのうち、「一つの事件において、全ての取調べの機会に録音・録画を実施した事件」が54件あるとのことである。もっとも、その中でも、総取調べ時間に対する録画の実施時間の比率は61.2%であった。知的障がいが疑われる被疑者については、特にその必要性に照らし、弁解録取時や取調べの早い段階の応答を必ず録画し、以後全体を通じて録画がなされるべきであり、このことについて、さらに捜査幹部、捜査員に広く周知し、徹底すべきであろう。

 

このように、警察署においても、取調べの録画の試行が広がっており、全過程の録画についてもその有用性を認識し得る土壌は整いつつあると言うべきである。今回の検証の中には、「取調べにおける録音・録画については、その方法如何により取調べの真相解明機能に大きな影響を与え得ることについても十分な留意が必要である」といった表現が使われているが、試行の繰り返しの中で取調べの可視化を捉え直すべきであろう。

 

今後、さらに録画の経験を集積し、取調べの可視化の制度化に先駆けて全過程の録画を一般的に試行されるよう求める。