「小野市福祉給付制度適正化条例」に関する会長声明

 

兵庫県小野市は、本年4月1日から、「福祉給付制度適正化条例」(以下「本条例」という。)を施行した。



本条例は、福祉給付制度における偽りやその他不正な手段による給付及び給付金の不適切な費消等を地域社会全体と連携して防止しようという考え方に基づいて制定されている。国家財政、自治体財政が逼迫している現在、本条例と同様な考え方に基づく条例が今後各地に広がる可能性があり、さらには国の立法に影響を与える可能性も否定できない。



本条例第3条1項は、「受給者は、偽りその他不正な手段を用いて金銭給付を受けてはならないとともに、給付された金銭を、パチンコ、競輪、競馬その他の遊技、遊興、賭博等に費消し、その後の生活の維持、安定向上を図ることができなくなるような事態を招いてはならない」と規定する一方で、第5条では、「市民及び地域社会の構成員は、生活保護制度、児童扶養手当制度その他福祉制度が適正に運用されるよう、市及び関係機関の調査、指導等の業務に積極的に協力するものとする。」(1項)、「市民及び地域社会の構成員は、受給者に係る偽りその他不正な手段による受給に関する疑い又は給付された金銭をパチンコ、競輪、競馬その他の遊技、遊興、賭博等に費消してしまい、その後の生活の維持、安定向上を図ることに支障が生じる状況を常習的に引き起こしていると認めるときは、速やかに市にその情報を提供するものとする。」(3項)と規定している。



どんな福祉給付制度であれ、不正受給がなされるべきでないことは、異論のないところである。しかし、福祉制度により現金給付を受けている者の私生活を、その周辺の人々が監視し、市などに密告し、市の職員が生活指導をするという仕組みは、生活保護法はおろか、あらゆる福祉制度が予定ないし許容していないプライバシーの侵害であり、私生活への過剰な干渉であり、憲法第13条に違反するおそれがある。



すなわち、本条例は、誰が生活保護等の社会福祉制度の受給者であるかというセンシティブな個人情報を、誰もが知っていないと成り立たない仕組みである。誰もが知るようになれば、例え善意の動機であるにせよ、様々な過剰な監視と、どこで誰がどのような浪費をしたかという過剰な通報(市への情報提供)がなされる可能性がある。これは一般市民による相互の私生活監視であり、密告社会である。こうしたセンシティブ情報を一般市民が共有すること自体、受給者のプライバシーを侵害するものである。



個人の尊厳を基本的な価値原理とする現行憲法の下では、福祉給付金の浪費防止策は、給付自治体のためではなく、受給者本人のためとして行われなければならない。そうだとすれば、浪費対策は、社会福祉主事による生活指導や、ギャンブルや買物などの依存症等については依存症専門医による治療こそが重視され、実行されるべきである。そこで一市民としての関与があり得るとすれば、受給者本人との直接対話により本人の相談に乗ったり、上記生活指導や治療を薦めることであって、行政機関に密告することではない。それこそが、個人の尊厳に立脚した、人間らしい助け合いの社会である。

 

よって、当連合会は、本条例を速やかに廃止するように求める次第である。

 

 

2013年(平成25年)4月26日

日本弁護士連合会

会長 山岸 憲司