「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律案」に対する会長声明

 

政府は、2013年(平成25年)4月19日、集団的消費者被害回復のための新たな訴訟制度の導入を内容とする「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律案」を閣議決定し国会へ提出した。同制度の導入は、これまで情報力や交渉力の格差から必ずしも十分には被害回復が図られてこなかった消費者被害の実効的な救済に資するものとして当連合会も長年にわたり提唱してきたところであり、画期的なものとして評価できる。


この集団的消費者被害回復制度に対しては、企業の競争力を損ない、制度の濫用や企業の自主的な解決も阻害するおそれがあるなどといった批判も見られる。しかしながら、消費者に生じた被害が適切に回復されることは公正な市場の実現に資するものであり、企業活動の視点からも積極的に評価されるべきものである。また、適格消費者団体による差止請求の運用における実情などを踏まえると、本制度の濫用のおそれは杞憂というべきであって、むしろ本制度の実現により企業の自主的な解決をより促進する効果も期待されるところである。当連合会は、本制度の意義及び内容につき、正しい理解に基づいて国会での審議がなされることを期待し、平成25年の通常国会において本制度の導入が実現されることを強く求める。


同時に、当連合会2012年(平成24年)8月31日付け「『集団的消費者被害回復に係る訴訟制度案』に対する意見書」において述べたとおり、政府提案にかかる本制度には以下のとおり同制度の実効性を損ないかねない問題点もあり、当連合会は、今後の国会での審議においてその是正がなされるよう求める。

 

1 法律案では、法律施行前に締結された消費者契約に関する請求権等については対象としないものとしているが、このような制限が課されれば同一事案につき救済される対象消費者と救済されない対象消費者を生じさせることになる。かかる区別をすることに何ら合理的な根拠はなく、特定適格消費者団体による共通義務確認の訴えの提起時点において時効等により消滅していない請求権についてはすべて本制度の対象とすべきである。本制度はもともと消費者にはなかった権利を新たに認めるものではなく、消費者側の情報力・交渉力の格差などにより本来賠償されるべきにもかかわらず賠償されないままになっているような被害を集団的に回復していくというものであり、健全な企業であれば当然なすべきことを求めるにすぎないものであって、企業の「予測可能性」などを考慮して対象となる請求権の時的範囲を制約することは不合理である。


また、このような制限は、本制度の導入を議論した集団的消費者被害救済制度専門調査会では全く議論されておらず、これまでに政府から公表されていた制度案等においても一切盛り込まれていなかったものであって、制度の実効性に関わるこのような重要な制限がこれまでの議論の経過を踏まえずに設けられようとしていること自体問題である。

 

2 法律案では、簡易確定手続における対象消費者への通知または公告に要する費用につき、例外なく申し立てた適格消費者団体が負担するものとしているが、かかる費用を適格消費者団体が負担するものとすると最終的には対象消費者の負担となってしまい、特に低額被害事案での救済が困難となるおそれがある。簡易確定手続に移行した段階においては被告事業者に一定の金銭支払義務のあることが確認されており支払手続に必要な費用の一定の負担を求めても不当ではないこと、被告側も一回的解決というメリットを享受しうることなどから、簡易確定手続における対象消費者への通知または公告に要する費用については、原則として事業者が負担するものとされるべきである。

 

3 共通義務確認の訴えにおける和解において、訴えの目的となった共通義務の存否についてだけではなく、事案の特性に応じて、事業者に対して金銭の支払いを求めること以外の内容であっても和解ができることを明らかにすべきである。また、このような和解の結果として(また、訴訟提起前の交渉の結果として)対象消費者に金銭の支払いやそれ以外の利益を得させることとなっても、特定適格消費者団体に禁じられている財産上の利益の受領にはあたらないことを明らかにすべきである。

 

4 法律案では、相手方事業者が簡易確定手続における対象消費者への通知に必要な対象消費者の住所・氏名等の情報開示命令に応じない場合の制裁を過料としているが、開示命令の実効性確保のために、さらに制裁を強化すべきである。

 

5 制度を実効性あらしめるために、特定適格消費者団体はもちろん適格消費者団体に対する財政面も含めた積極的な支援を行うべきである。

 

6 法律案の施行後5年経過時において検討されるべき所要の措置に関しては、対象となる事案の拡大や被害者団体等の特定適格消費者団体以外にも手続追行主体を拡大することなどを検討すべき事項として例示すべきである。

当連合会は、このような問題点、改善すべき点の是正を求めながら、あるべき集団的消費者被害回復制度の実現のために今後も尽力する。

 

 

 

2013年(平成25年)4月19日

日本弁護士連合会

会長 山岸 憲司