いわゆるテロ資金提供処罰法の一部を改正する法律案に対する会長声明

 

政府は、2013年3月15日、「公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等の処罰に関する法律(略称「テロ資金提供処罰法」)の一部を改正する法律案」(以下「本改正案」という。)を国会に上程することを閣議決定し、同日、国会に提出した。

 

 

本改正案における改正点は大きく次の2点である。


第1に、現行法においては資金だけだった提供の対象を、これに限らず、「その実行に供するその他の利益(資金以外の土地、建物、物品、役務その他の利益)」、すなわち、物質的な利益に広く拡大することである。


第2に、これまで、テロ企図者に対して直接提供する行為(一次協力者の行為)及び一次協力者に提供させる行為だけを処罰していたが(10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金)、改正案は、①一次協力者間の提供行為及び提供を受ける行為(7年以下の懲役又は700万円以下の罰金)、②一次協力者に対する二次協力者の提供行為及び提供を受ける行為(5年以下の懲役又は500万円以下の罰金)、二次協力者に対する協力者(その他協力者)の提供行為及び提供を受ける行為(2年以下の懲役又は200万円以下の罰金)にまで、その処罰範囲を拡大しようとするものである。

 

 

かつて、当連合会は、この法律の制定に反対する意見書を公表している(2002年4月20日付け「公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等の処罰に関する法律(案)」に対する意見書。)が、そこで指摘した危惧が何ら解消されていない。

 

 

2005年に開催された国連犯罪防止会議において採択された「バンコク宣言」の前文では、「各国は、テロとの闘いにおけるいかなる措置も、国際法上の全ての義務に従ったものであることを確保しなければならず、かつ国連憲章及び国際法、特に国際人権法、難民法及び人道法に従ってそれらの措置をとるべきであることを再確認し」と謳われており、このような観点から本改正案を検討しなければならない。

 

 

国連のテロリズムに対する資金供与の防止に関する国際条約の国内法化した現行法については同条約と比べて、処罰範囲が著しく拡大されているとの批判があり、当連合会も、かつて構成要件が不明確であると指摘していたがこの問題点をさらに増幅させる危険なものである。


すなわち、改正の第1点については、提供の対象を物質的な利益にまで拡大させることによって、「公衆等脅迫目的の犯罪行為の実行を容易にする目的」という曖昧な文言と相まって、提供行為についての構成要件はますます曖昧となり、政府や捜査機関による恣意的な運用がなされるおそれを拡大することになる。


改正の第2点については、資金等の提供者について、一次協力者に利益を提供する二次協力者、二次協力者に利益等を提供するその他協力者にまで拡大するものであり、処罰対象者を著しく拡大するものである。


そもそも、テロ資金提供処罰法は、テロ企図者に対して直接に提供行為を行うこと自体を予備行為の幇助として独立に処罰するものであり、構成要件の外延が不明確になるおそれを有するものであったところ、本改正案は、その予備行為の幇助をさらに幇助する行為を新たに独立の犯罪行為として処罰しようとするものであり、現行刑事法の共犯規定と比較しても正犯の行為から遙かに離れた行為を処罰するものであり、その処罰範囲は著しく広汎に過ぎると言わなければならない。

 

本改正案が成立すると、構成要件が不明確であり、かつ、著しく広汎な処罰範囲であることから、政府や捜査機関によって、テロ対策という極めて政治的な判断から、恣意的な不当逮捕・勾留がなされる危険性が増大することは避けられない。

 

 

2013年3月末日現在、現行法が適用された例を聞かない。これは、この法律を制定する立法事実がなかったことを示していると考えることができる。


そうであるならば、現行法が有する問題点を解消するどころか、その問題点を増幅させるだけの本改正案については、そもそも立法事実自体が存在しない。本改正案には強く反対せざるを得ない。

 

 

以上から両議院の法務委員会においては、十分な審議時間を確保した上で、本声明が指摘する本改正案の問題点に留意し、人権保障上の問題を完全に払拭しない以上本改正案を安易に可決することのないよう、広く国民の意見を聴き徹底的に審議が尽くされることを求めるものである。

 

 

 

2013年(平成25年)4月17日

日本弁護士連合会
会長 山岸 憲司