平成25年度予算案で示された生活保護基準の大幅引下げに強く反対する会長声明

現在、平成25年度予算案(以下「本予算案」という。)が衆議院で審議中である。本予算案には、生活保護の生活扶助基準額を平均6.5%、最大10%引き下げる内容が含まれ、これによって生活保護世帯の96%について受給額が減るという。1950年の現行生活保護法制定以来、生活保護基準が引き下げられたのは2003年度(0.9%)と2004年度(0.2%)の2回だけであり、今回の引下げは前例を見ない過去最大の規模である。



本予算案は、生活扶助基準の見直しによって3年間で総額670億円を削減するものである。そのうち、90億円は社会保障審議会生活保護基準部会(以下「基準部会」という。)における検証結果を踏まえて、年齢、世帯、人員、地域差による影響を調整するとされており、580億円は「前回見直し(平成20年)以降の物価の動向」を勘案して削減するという。



しかし、基準部会の検証結果を理由に生活保護基準の引下げを行うことが許されないことは、既に、本年1月25日付け「社会保障審議会生活保護基準部会の報告書に基づく生活保護基準の引下げに強く反対する会長声明」において指摘したとおりである。



それに加えて、本予算案は、削減額のほとんどが物価動向を理由としている点において、看過しがたい重大な問題がある。



すなわち、1984年から今日に至るまで採用されている生活扶助基準改定方式である「水準均衡方式」は消費支出の動向に着目する方式であって、物価の動向を勘案するものではない。物価動向の勘案という、生活扶助基準改定方式の根本的な転換を行うのであれば、社会保障審議会(少なくとも基準部会)における慎重な検討を経ることが不可欠であるが、そのような検討は一切なされていない。



また、この間の物価下落の主因は、家具・家事用品費及び教養娯楽費(特に家電製品)の大幅下落にあり、食料費の大幅な下落は見られず、光熱・水道費は高騰している。生活保護世帯は一般世帯に比して、食料費や光熱・水道費が家計に占める割合が大きく、教養娯楽費が占める割合は小さいことからすると、生活保護世帯が物価下落の恩恵を受けているとは言えない。仮に、物価動向を勘案するのであれば、少なくとも、こうした生活保護世帯に特有の支出割合を考慮する必要がある。しかし、厚生労働省が今回採用した「生活扶助相当CPI(物価指数)」は、一般世帯における品目ごとの支出額の割合をそのまま使っている上に、家賃、診療代、自動車、授業料等の生活扶助に該当しない品目の支出割合を除くことによって分母が減り、例えば教養娯楽費の支出割合が一般世帯以上に大きくなるなど、生活保護世帯と一般世帯の支出割合の乖離がむしろ増幅されることによって大幅な引下げをもたらす結果となっているのである。



厚生労働大臣が生活保護基準を決定するにあたっての裁量判断の適否について、平成24年4月2日最高裁第二小法廷判決は、「判断の過程及び手続に過誤、欠落があるか否か等の観点から、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性の有無等について審査されるべき」としている。かかる判断基準に照らせば、基準部会における検討も一切経ないまま生活扶助基準改定方式を根本的に転換し、検討されている物価指数の数値にも合理性が認められない生活保護基準の引下げが行われた場合、厚生労働大臣の判断には裁量権の逸脱・濫用があり違法であるといわねばならない。



当連合会は、これまでも繰り返し生活保護基準の引下げに反対する意見を表明してきたが、改めて憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の基準である生活保護基準の引下げに強く反対するものである。


2013年(平成25年)3月26日

日本弁護士連合会
会長 山岸 憲司