PC遠隔操作による脅迫メールえん罪事件をめぐる警察検証結果についての会長声明

12月14日、警視庁、神奈川県警、三重県警、大阪府警は、一連のいわゆるPC遠隔操作による脅迫メールえん罪事件について、誤認逮捕等に至った経緯についての検証結果を公表した。


各警察において、一連のえん罪事件における自らの捜査の誤りを認めていること自体は、評価することができる。しかし、その検証は、あくまで第三者を交えない内部調査にすぎない上、誤認の最大の原因が、未知のウィルスによる遠隔操作であったことをことさらに強調するものとなっており、真の問題点に踏み込んでいるとは言い難い。特に、取調べについての検証はおよそ不十分である。


すなわち、警視庁の取調べにおいては、虚偽自白を生んでいたにもかかわらず、虚偽自白の主要な原因がえん罪被害者の心情にあったかのような弁解に終始している。例えば、えん罪被害者が虚偽自白をしていることについて、「同居の女性をかばうため脅迫メールを送信したと嘘を言った」と供述していることを強調する一方、取調官の言い分のみを根拠に、不適正な行為は認められないとしている。えん罪被害者が、虚偽の上申書まで作成していることについても、そもそもなぜそのような上申書が作成されるに至ったのかについて明らかにしないまま、その作成に関して、「意図的に記述内容を誘導したり、客観的事実に合致する記述を押し付けたりした状況は認められない」としている。


神奈川県警においては、少年が「否認していたら…「院」に入ることになるぞ」「検察官送致になると裁判になり、大勢が見に来る。実名報道されてしまう」「無罪を証明してみろ」などと脅迫されたと訴えていることについて、検討の結果、警察での取調べを受けたことがない少年に対する一連の刑事手続の説明が少年院に入ってしまう不安を助長させたおそれがあることなどを認め、否認をしている少年に対し自らの犯行でないことを具体的に説明するように求めたことは、監督対象行為(国家公安委員会規則上の不適正な取調べにつながるおそれのある行為)に該当すると認められるとした。このように、取調官の言動には重大な問題があったにもかかわらず、「少年院や保護観察について質問があったので、それに答えた」「裁判は誰でも自由に傍聴できる」「こういう理由で自分がやったのではないという説明をしたらどうか」などという一般論を説明したり、穏便な質問をしたりしたにすぎないとする取調官の弁明をそのまま受け入れ、また、虚偽自白の主たる原因は少年の特性の一つである「迎合性」であったかのように記述しており、検証として不十分であることは否めない。


虚偽自白がなされなかった三重県警、大阪府警においては、取調官らの言い分のみを前提に、取調べにおいて、不適正な行為はなかったとしている。しかし、えん罪被害者の弁護人らによれば、大阪府警の取調べにおいては、えん罪被害者の言い分におよそ耳を貸さず、心理的圧力をかける取調べがなされていたことが判明している。また、三重県警は、えん罪被害者の否認にもかかわらず、延べ12日間、合計24回約50時間にわたる取調べを実施し、うち最も長い取調べは一日当たり約8時間に及んでいたことを自認しているが、かかる長時間の執拗な取調べが、えん罪被害者を犯人とし決めつけたものであったことは明らかである。不適正な取調べがなかったとする検証結果は、およそ容認できるものではない。


結局、今回の検証では、取調べにおける問題点が十分に解明されたと言うことはできない。もとより、本件において、取調べの可視化(取調べ全過程の録画)が行われていれば、虚偽自白の経過も、虚偽自白を生んだ取調べの問題点もすべて検証することができた。警察は、取調べの可視化をしていなかったことにより、取調べの問題点を検証する貴重な機会を失ったと言える。今回の検証では、虚偽供述の吟味が足りなかったとし、供述吟味担当官によって吟味すれば再発防止ができるかのような記載もみられるが、取調べの可視化なくして、虚偽供述かどうかの吟味は困難であり、抜本的な検証も、再発防止策もありえないというべきである。


今回は、真犯人が自分の犯行であることを公にしたことにより、えん罪が判明したものであるが、真犯人がこのような行動をとるのは稀有なことであり、最後まで明らかにならないえん罪も、数多く存在することが懸念される。そうであるからこそ、このような貴重な機会においては、改めて第三者による徹底した検証を行うことを求めるとともに、今後、検証の機会を失うことのないためにも、取調べの可視化の速やかな実現を求める次第である。

 

2012年(平成24年)12月19日

日本弁護士連合会
会長 山岸 憲司