区域外(自主)避難者への借上げ住宅制度の適用継続及び拡充を求める会長声明

福島県は、本年11月5日、福島原子力発電所事故に伴う避難区域外から県内の別の地域に避難した住民について民間借上げ住宅支援の対象とすること、及び福島県外の借上げ住宅について新規受付を本年12月28日で終了することを発表した。



災害救助法に基づく借上げ住宅制度は、受入先都道府県が民間賃貸住宅を借り上げ、被災地からの避難者に対して提供し、その費用を福島県に求償し、最終的に最大9割を国費で負担する仕組みである。福島県では、現在でも県内外に15万人以上が避難しているところ、同制度は、低線量被ばくによる健康影響等を懸念して避難を行った避難者の生活基盤の安定にとって欠かせない仕組みとなっている。



これまで、避難区域外から県外に避難した避難者には、借上げ住宅による支援が提供されていた一方、県内でより放射線量の低い地域に避難した避難者には、同制度が適用されてこなかった。この取扱いに何ら合理性がないことは、当連合会も7月11日付け「福島県内区域外(自主)避難者への民間賃貸住宅借上げ制度の適用を求める会長声明」で指摘してきたところである。



今回の発表により、県内区域外避難者も借上げ住宅による支援の対象とされることになる。これまでに支払った家賃額に対する援助がなされない、支援対象が子ども・妊婦のいる世帯に限られるなど、いまだに問題点は残っているものの、県内区域外避難者への支援が一歩前進したことは評価に値する。福島県には、今回の措置について周知を徹底することが期待される。また、厚生労働省は、速やかに県内区域外避難者への借上げ住宅支援について、国庫負担の対象とするべきである。



一方、県外借上げ住宅の新規受付終了については、大きな問題をはらんでいることを指摘せざるを得ない。福島県は、県外区域外避難者への借上げ住宅の新規受付けを12月28日で終了するとし、また県内区域外避難者への同制度の適用も同日までが受付期間とされた。これにより、12月28日以降に区域外避難を開始した避難者は、借上げ住宅制度による支援を受けることができないことになる。



現在でも、福島県の多くの地域において、公衆の追加被ばく限度である年間1mSvを超える放射線量が観測されている。福島市が5月に行った意識調査の結果によれば、8割以上の市民が外部被ばくや内部被ばくの影響について「大いに不安」「やや不安」としており、全体の3分の1、乳幼児や小学生のいる世帯の半分以上が「できれば避難したい」と回答している。現在必要なのは、避難を希望する世帯に、その選択を可能にするための支援を提供することである。本年6月21日に成立したいわゆる「原発事故子ども・被災者支援法」は、一定の放射線量を上回る地域からの避難について自己決定を行うことができるよう支援することを基本理念として定め(同法第2条第2項)、避難先における住宅の確保に関する施策を講じるとしており(同法第9条)、借上げ住宅の新規受付終了は、同法の理念や規定にも反するものである。同法に基づく支援の開始までは時間がかかることが見込まれる中、区域外避難者への切れ目のない支援を実現するためにも、借上げ住宅の受付は当面の間継続されるべきである。



福島県は、新規受付終了の理由として、県外への避難者が減少傾向にあることを挙げているが、上記意識調査の結果からわかるとおり、新規避難者が減少傾向にあるのは避難者に対する支援が不十分であるからであって、むしろ避難者への支援の継続・充実こそが現在求められている。



したがって、当連合会は、福島県に対し、県内区域外避難者への支援をさらに充実すると同時に、県内外の区域外避難者への借上げ住宅支援について、当面の間新規受付を継続するよう求めるとともに、厚生労働省に対し、同支援の継続中はこれを全て国庫負担の対象とするよう求める。

 

2012年(平成24年)11月14日

日本弁護士連合会
会長  山岸 憲司