被災者本位の復興予算配分を求める会長声明

政府の策定した「東日本大震災からの復興の基本方針」(2011年7月29日)に基づく復興予算(概算19兆円)が、被災地復興との関係が疑われるような事業に使われている。復興予算の主な財源は、今後10年から25年間に及ぶ住民税や所得税などの増税であることから、被災地との関係が疑問視されるような支出や、一般予算で手当てすべき事業への支出は、必ずしも法的に問題があるとはいえないものの、到底国民の支持、理解が得られるものではない。



今回の復興予算のいわゆる「転用問題」は、東日本大震災復興基本法の「単なる災害復旧にとどまらない活力ある日本の再生を視野に入れた抜本的な対策」(第2条第1号)との基本理念を法的根拠にして、各省庁が予算要求した結果であるとされるが、当連合会は、2011年5月20日付け意見書や、同年8月19日付け意見書において、復興の主体が被災者であるとの視座から、復興施策について日本経済再生の観点を強調すべきでないことを繰り返し提言してきたところである。今回の事態は、予算編成及び予算の適正な執行の監視を職務とする立法府及び行政府がそれぞれ十分にその機能を果たしてこなかったことが原因と考えられる。



しかし、さらに重要な問題は、本来、被災地に投入されるべき復興予算が行き届いていないことであり、被災者の自主的な復興の芽を摘む深刻な結果を招いている例も発生している。



この状況を受けて、復興予算の使途の検討のため、10月18日から参議院の決算委員会で審議が開始され、23日から衆議院の委員会でも審議が開始されるとのことである。また、行政刷新会議では来年度予算の「仕分け」が行われる予定であるとのことであるが、予算執行の遅延原因や復興への効率性・公正性を追究するため、被災地の市民代表等も含めた第三者機関を設けるなどして徹底的に精査すべきである。また、単なる検証にとどまらず、既に復興対策費が19兆円を超過することが確実であることから、過去の支出分であっても、疑問視されるものは一般予算に振り替えるなどして、今後被災地のために使われる復興予算を確保すべきである。



ところで、今回の復興予算の問題は、被災者を主体とする施策が重視されなかったところに主たる原因がある。当連合会は復興の主体が被災者であると強調してきたところであり、今、最も重視されるべきことは、復興予算に被災者の声を反映させること、すなわち被災者本位の復興予算の配分である。



かかる観点から、以下の3点を考慮した復興予算の検証を求めたい。



第一に、国は、被災者の声を直接に聞き、被災地のニーズを集約する仕組みを設けるべきである。本件問題は被災者のニーズから乖離した各省庁の思惑が原因であるが、政府の「東日本大震災からの復興の基本方針」でも復興基本方針の実施状況について被災者の意見を聴取することが明記されており、被災者の現実のニーズを第一に考えるべきである。しかし、今始まりつつある復興予算の検証の取組にも、被災者の姿は見えない。復興予算においても被災者の声を反映させる仕組みが不可欠である。



第二に、いわゆる原発事故子ども・被災者支援法の具体的施策を盛り込んだ基本方針の策定にあたっては、十分な予算措置が講じられるようにするべきである。同法は市民の声が集まってできた市民立法であるが、議員立法であり予算が措置されていないため、未だ本格的に始動していない。被災者主権の見地からすれば、こうした市民立法の法律の実施にこそ復興予算が投じられるべきである。現在、被災者のニーズの集約過程にあるが、提案されている施策はどれも切実な被災者の訴えに基づくものであるから、予算不足を理由に排斥されることのないようにすべきである。



第三に、被災者の生活再建に直接に結びつく事業に対する復興予算の投入を重視するべきである。被災地の復興が遅々として進まない原因は、被災者の生活再建が進んでいないところある。「東日本大震災からの復興の基本方針」でも、住民ニーズの把握、被災ローン減免制度(個人版私的整理ガイドライン)の運用支援、雇用支援、必要に応じたパーソナルサポート的な支援の導入など、被災者の生活再建に直接結び付く施策を講じることとされているが、復興予算の大部分が公的事業を対象としている。被災者に対する直接的な法的支援となる日本司法支援センターの事業についても、阪神・淡路大震災における法律扶助事業と比べて有力な支援メニューは乏しく、むしろ支援は後退している。被災者生活再建支援法に基づく支援の拡充も放置されたままである。被災者本位の復興予算とするべく、改めて被災者の生活再建に直結したニーズを洗い出し、当該ニーズに即した事業への支出を行うべきである。



2012年(平成24年)10月22日

日本弁護士連合会
会長 山岸 憲司