被災地の集団移転における抵当権抹消の特例措置に関する会長談話

東日本大震災の被災地の集団移転の促進のため、金融機関が対象地の宅地に設定された抵当権抹消の特例措置の創設を検討していることが、本年10月12日付けの報道で明らかとなった。



防災集団移転促進事業の多くは、自治体が被災者から土地を買い取って、移転先に宅地を整備する方針であるが、抵当権の抹消を買い取り条件としていることから、抵当権の存在が障壁となっていた。この点、住宅金融支援機構は、抵当権放棄の方針を既に打ち出していたにもかかわらず、民間の金融機関は抵当権の放棄に消極的であったところ、今般、大きく方針転換をしたものであり、被災者の生活再建及び被災地の復興促進に資するものとして、歓迎すべき動きである。抵当権抹消を求めて声を挙げ続けてきた被災者はもとより、金融機関の調整に当たった金融庁、被災地の復興に関わる自治体、実務専門家らの粘り強い努力として評価したい。金融庁と金融機関との協議により、この特例措置が確実に実現することを期待する。



もっとも、抵当権が抹消されたとしても、自治体の買い取り条件が満たされたに過ぎず、被災地の復興を図るには、被災者の移転先での住宅再建を可能とする条件の整備が必要である。また、抵当権が抹消されたとしても金融債権(ローン)は残るため、これを解決する手立てを講じなければ、生活再建の途上にある被災者にとっても、経営の早期健全化に取り組んでいる金融機関にとっても十分とはいえない。そこで、次の三点について、積極的に取り組むことを求める。



第一に、被災者の抱えている既存債務の軽減を図るため、被災ローン減免制度(個人版私的整理ガイドライン)の積極的活用を、より一層推進すべきである。被災ローン減免制度は、義援金等のほか500万円の生活再建資金等を残して弁済をすることにより既存債務が免除される私的整理の仕組みであるが、集団移転後の住宅再建等のためには、この制度の活用は不可欠である。また、債権者にとっても、無税償却できることから抵当権抹消後の残ローンの不良債権化を防ぐことができる。



第二に、金融機関は、集団移転する地域に限らず、被災した物件について、広く被災ローン減免制度を活用して抵当権の抹消を行うべきである。被災地の復興の手法は、集団移転だけでなく、区画整理事業や漁業集落防災機能強化事業など多岐にわたり、自治体の買い取りが予定されていないものもある。しかし、事業手法が違っても復興促進という目的は共通であり、被災者の抱えている課題は同一であるから、こうしたケースでも同様の対応が必要かつ不可欠である。



第三に、金融機関は、借地上の住宅建設に対する住宅ローンを弾力的に実施するべきである。集団移転の計画の多くは、自治体が確保した移転先の用地を被災者に賃貸して、その借地上に被災者が住宅を再建することを予定している。たとえ被災ローン減免制度で既存債務の負担が軽減されたとしても、新たな建築資金の余裕のある者は決して多くない。金融機関の多くは、借地権付建物に対する住宅ローンには消極的であるが、被災地の復興促進を図るため、現実の復興計画に即した形で住宅ローンを弾力的に運用し、融資を実施すべきである。



2012年(平成24年)10月19日

日本弁護士連合会
会長 山岸 憲司