国会同意を経ない原子力規制委員会人事決定に関する会長声明

政府は、本年9月19日、原子力規制委員会の人事案を国会の同意手続抜きで決定し、同委員会は同日原子力規制庁の幹部人事も決定した。



原子力規制委員会設置法は、福島原発事故の反省を踏まえ、国の原子力規制について失われた国民の信頼を回復するため、原子力規制委員会を独立性の高いいわゆる3条委員会とし、委員全員を国会同意人事の対象としている。



これについて当連合会は6月21日付けの会長声明において委員の身分を保障し、職権の独立性を強化したことを高く評価した上、7月19日付けの会長談話において、同委員会の委員の人選についても意見を述べたところである。



ところが、政府が7月26日に国会に提示した人事案は委員候補のうち更田豊志氏と中村佳代子氏が設置法第7条第7項第3号の定める原子力事業者に現に勤務している者であり法の定めた欠格要件に該当する(8月3日付け会長声明参照)。また、国会での人事案の審理は、議院運営委員会に委員長候補が招致され、国会議員による質疑がなされるに至ったが、「人事案撤回」の世論が日増しに強まり、野党議員はもとより与党議員の中からも委員長・委員候補の適格性と選任の適法性への疑問が強く提起され、結局議決を経ることができず、9月8日に国会は閉会した。



しかるに、政府は原子力規制委員会設置法附則第2条3項の定める原子力緊急事態宣言がされている場合の特例を根拠として、国会の同意なしに委員長と委員の任命を9月19日に行った。



しかし、国会事故調の報告書が作成され、国会における与野党の議論に基づいて原子力規制委員会設置法も制定されたのであり、政府が人事案を国会に提案した後1か月以上国会で議論しても同意が得られなかった今回のような場合に、附則を使用することは、原子力規制委員会の独立性を確保するためその委員長・委員の選任に国会を関与させようとした法の趣旨の軽視というほかない。



このような政府の原子力規制委員会の人事決定のプロセスは、違法かつ不当なものであり、原子力行政に対する国民の信頼を取り戻すことなど到底できないと思われる。



当連合会は、政府に対し、福島原発事故を二度と繰り返してはならないという法制定の原点に立ち返り、人事案の違法性を認めてこれを撤回し、改めて国会において人事案についての同意の手続を経て、委員長・委員を任命するよう求めるものである。



2012年(平成24年)10月1日

日本弁護士連合会
会長 山岸 憲司