会社法制の見直しに関する要綱案に対する会長声明

2012年8月1日、法制審議会会社法制部会において会社法制の見直しに関する要綱案(以下「要綱案」という。)が確定した。

 

1 要綱案の確定及び附帯決議の採択について

 

2010年、千葉景子法務大臣(当時)から、「会社法制について、会社が社会的、経済的に重要な役割を果たしていることに照らして会社を取り巻く幅広い利害関係者からの一層の信頼を確保する観点から、企業統治の在り方や親子会社に関する規律等を見直す必要がある…」との諮問第九十一号を受けて法制審議会に会社法制部会が設置され、我が国未曾有の災害の一つといえる東日本大震災の発生を挟む約2年半の審議の末、要綱案が確定した。要綱案は、これまで判例等で示された企業経営陣を中心とする多くの企業統治の問題点を明らかにし、今後の企業不祥事の発生に歯止めをかける道筋を示すとともに、経営効率の向上に向けた新たな監督機能強化等が盛り込まれており、案として確定したこと自体に意義があり、当連合会としては、我が国会社法制においても、法の支配が一層進展するであろうことを期待し、歓迎の意を表したい。

 

しかしながら、当連合会が会社法制の見直しに関する中間試案にかかるパブリック・コメントにおいて賛同した事項のいくつかは未達成の状態であり、今後も法令遵守態勢への国民監視が必要であると同時に、各企業が幅広い利害関係者から一層の信頼を確保すべく、企業統治の向上に向け経営者等の一人一人の不断の努力がなされることを強く希望するものである。また、必要に応じ、将来の更なる法改正も検討すべきである。

 

2 企業統治に関する要綱案部分について

 

今般の会社法改正の中核の一つと位置付けられていた社外取締役の選任の法律による義務化が見送られたが、監査役会設置会社のうち、一定の株式会社において、社外取締役が存しない場合には社外取締役を置くことが相当でない理由を事業報告で開示することが求められ、また附帯決議では金融商品取引所の規則にて上場会社は取締役である独立役員を一人以上確保するよう努める旨の規律を設ける必要性が示され、関係各界の真摯な協力が要望されている。

 

当連合会は、社外取締役の義務化とともに、社外取締役の独立性を高め、近年の上場会社に発生している不祥事を未然に防止するためにも社外取締役の業務監督の実をあげ、コンプライアンス監査の質を向上する必要があると考え、社外取締役の中に一人以上の法律専門家を選任するよう義務づける必要性を訴えてきたが、この点が入れられなかったのは誠に遺憾である。

 

なお、当連合会としては、法令に精通する専門家の強制加入団体として、改正法の趣旨に沿う実務の成熟や独立役員の給源につき真摯に協力をし、今後も必要な提言等を行っていきたい。

 

また、新たな制度として、監査・監督委員会設置会社(仮称)を含む複数の新たな制度等が創設されることとなったが、我が国の企業が、会社を取り巻く幅広い利害関係者からの一層の信頼を確保できるか否かは、企業の経営者その他の関係者によって、これらの新たな制度等について良好な企業統治や法令遵守への真摯な対応を目指す運用がなされるか否かに、大きく依拠するものである。我が国において、これら新たな制度等が、優れたものとして定着するかについて、当連合会としても今後注視していくこととしたい。

 

3 親子会社法制等に関する要綱案部分について

 

1997年における独占禁止法改正による持株会社解禁以降、親子会社への規律の在り方について、社会は強い関心を持ってきたところであるが、今般、いわゆる多重代表訴訟制度、支配株主の異動を伴う募集株式の発行等、詐害的会社分割等における債権者の保護規定等の新制度及び株式買取請求権等の制度改正等がなされたことを前向きに評価するものである。

 

しかしながら、多重代表訴訟は要件が厳格に過ぎるほか、親会社取締役の責務や親子会社間の利益相反取引等に関する親会社の責任についての改正は見送られ、少数株主保護に関する制度改正は、まだ十分なものとは言い難い。今後、改正法の運用状況を踏まえ、親子会社への規律の在り方や少数株主保護の十分性についても、必要に応じ、将来の更なる法改正を検討することも視野に入れるべきである。

 

4 終わりに

 

当連合会としては、今後も、社外取締役の義務化に向けた法改正を求めていくとともに、社外取締役の業務監督の在り方等についても継続的に検討していく予定であるが、今般確定した要綱案については、法制審議会での審議及び国会での議決を経て、速やかに改正法が施行されることを期待する。

 

なお、企業統治や親子会社法制の改正に際し、既に存在する320万社以上ともいわれる株式会社等、そのうち約3500社ともいわれる上場企業に対し、改正法の施行が与える影響に鑑み、例えば、残存任期のある監査役の処遇等も含め、適切な経過措置を設けるとともに、国民全般及び会社を取り巻く幅広い利害関係者への新たな規律の周知徹底につき、十全の措置がなされることを期待するものである。

 

2012年(平成24年)8月22日

日本弁護士連合会
会長 山岸 憲司