原子力規制委員会委員の人事案の見直しを求める会長声明

政府は、本年7月26日、国会に原子力規制委員会の委員長及び委員の人事案を提示した。しかし、この人事案には、原子力規制委員会設置法(以下「設置法」という。)及び内閣官房原子力安全規制組織等改革準備室名義の本年7月3日付け「原子力規制委員会委員長及び委員の要件について」(以下「7月3日要件」という。)が定めた原子力規制委員会委員長及び委員の欠格要件に明らかに該当する者が含まれていることが明らかとなった。



7月5日に示された国会事故調の報告書において、新たな規制組織の独立性について「①政府内の推進組織からの独立性、②事業者からの独立性、③政治からの独立性を実現し、監督機能を強化するための指揮命令系統、責任権限及びその業務プロセスを確立する」ものとし、その委員の選定に当たっては、「第三者機関に1次選定として、相当数の候補者の選定を行わせた上で、その中から国会同意人事として国会が最終決定するといった透明なプロセスを設定する」とされていた。



当連合会も、7月19日付け会長声明において、法の定める欠格要件と7月3日要件に従うだけでなく、委員長・委員が国会の同意人事となっている趣旨を踏まえ、「候補者の原子力安全に関する過去の主要な言動を国会事務局において収集し、国会に提出した上で、候補者を国会に招致し、その資質と識見に関して時間をかけて質疑を行い、そのプロセスを公開し、さらに、その候補者に対する国民の意見を聴取するべきである。」との意見を述べたところである。



設置法第7条第7項第3号は、規制委員会の委員長及び委員について、「原子力に係る製錬、加工、貯蔵、再処理若しくは廃棄の事業を行う者、原子炉を設置する者、外国原子力船を本邦の水域に立ち入らせる者若しくは核原料物質若しくは核燃料物質の使用を行う者又はこれらの者が法人であるときはその役員(いかなる名称によるかを問わず、これと同等以上の職権又は支配力を有する者を含む。)若しくはこれらの者の使用人その他の従業者」を欠格事由として定めている。さらに、政府は、7月3日要件において、委員長及び委員について、上記法律上の欠格要件に加えて、「 ①就任前直近3年間に、原子力事業者等及びその団体の役員、従業者等であった者、②就任前直近3年間に、同一の原子力事業者等から、個人として、一定額以上の報酬等を受領していた者」を不適格とした。ここにいう「原子力事業者」とは、原子炉等規制法第58条第1項において「製錬事業者、加工事業者、原子炉設置者、外国原子力船運航者、使用済燃料貯蔵事業者、再処理事業者、廃棄事業者及び使用者(中略以下「原子力事業者等」という。)(略)」と定められている。



政府が提案している委員候補の更田豊志氏は、現在、独立行政法人日本原子力研究開発機構の副部門長である。同機構は、高速増殖炉もんじゅを設置し、東海再処理工場を保有する原子力事業者であり、設置法第7条第7項第3号の定める再処理事業者と原子炉設置者に該当することが明らかである。更田氏は、現在においても同機構の従業員であって、上記の欠格要件に該当する。



また、委員候補の中村佳代子氏は、公益社団法人日本アイソトープ協会のプロジェクトチーム主査である。同協会は、研究系・医療系の放射性廃棄物の集荷・貯蔵・処理を行っており、「原子力に係る貯蔵・廃棄」の事業を行う者であり、現在は文部科学省の管轄下にあるものの、設置法の施行後は原子力規制委員会による規制・監督に服することになるのであって、設置法第7条第7項第3号の定める原子力事業者等に該当する。中村氏は、現在においても同協会の従業員であって、上記の欠格要件に該当する。



政府は委員選任と同時に辞職予定であるから法の定める欠格事由に該当しないと説明しているようであるが、辞職さえすれば欠格要件に該当しないのであれば、欠格要件を定めた理由がなく、このような解釈は法の趣旨に反する。



また、政府は、7月3日要件については、独立行政法人日本原子力研究開発機構・公益社団法人日本アイソトープ協会は営利企業ではないため、「原子力事業者等」に該当しないと説明している。しかし、原子力規制委員会とその規制対象となる原子力事業者との間の利益相反を防止するとの欠格要件の趣旨は、非営利団体にも等しく妥当する。政府の解釈は、欠格要件を定めた法と7月3日要件の趣旨を理解せず、「原子力事業者等」を不当に狭く解するものである。



このように、設置法と7月3日要件に定められた政府方針に反するような者が委員候補とされたことは遺憾であり、このような事態となった原因は現在政府が進めている委員の選定のプロセスが不透明であることに求められる。当連合会は、選任のプロセス自体をやり直すためにも、政府に対し、法違反の2名だけでなく、人事案全体を撤回し、委員候補を再提案するよう強く求める。



2012年(平成24年)8月3日

日本弁護士連合会
会長 山岸 憲司