集団的自衛権の行使を容認する動きに反対する会長声明

本年7月9日及び12日の衆議院予算委員会において、野田佳彦首相は、政府が憲法上許されないとしてその行使を禁じてきた集団的自衛権について「政府内での議論も詰めていきたい」「集団的自衛権の一部を必要最小限度の自衛権に含むというのは一つの考えだ」と述べ、憲法解釈の見直しを検討する意向を表明した。これは、政府の「国家戦略会議フロンティア分科会」が、集団的自衛権に関する憲法解釈の変更を提言したことを踏まえた発言である。



また、自由民主党は、本年7月6日、憲法改正をしなくても集団的自衛権の行使を「可能」とする国家安全保障基本法案の概要を総務会で了承し、法案化を目指している。



しかし、集団的自衛権の行使とは、日本が外国から攻撃を受けなくても日本と同盟関係にある相手国が攻撃を受けた場合には共同で戦争行為に参加するというものであり、政府自身も、これまで「憲法第9条の下において許容されている自衛権の行使は、我が国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきものであると解しており、集団的自衛権を行使することは、その範囲を超えるものであって、憲法上許されない」としてきた。



そもそも、憲法9条の定める恒久平和主義のような基本原理を政府の解釈や法律によって根本的に変更しようとすることは、憲法が憲法を国の最高法規と定め(第10章)、憲法に違反する法律や政府の行為を無効とし(第98条)、国務大臣や国会議員に憲法尊重擁護義務を課す(第99条)ことで、政府や立法府が憲法に制約されることとした立憲主義に違反し、到底許されないものである。



地球上において武力紛争が依然として絶え間ない今日、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して国際的な平和を創造することを呼びかけた憲法前文、そして戦争を放棄し戦力を保持しないとする憲法9条の先駆的かつ現代的意義は、ますますその存在意義を増している。



当連合会は、2005年11月11日、第48回人権擁護大会(鳥取)での「立憲主義の堅持と日本国憲法の基本原理の尊重を求める宣言」や、2008年10月3日、第51回人権擁護大会(富山)での「平和的生存権および日本国憲法9条の今日的意義を確認する宣言」等において、一貫して集団的自衛権の行使が憲法に違反するものであり、憲法の基本原理である恒久平和主義を後退させ、すべての基本的人権保障の基礎となる平和的生存権を損なう恐れがあることを表明してきた。



よって、当連合会は、憲法前文や第9条によって禁じられている集団的自衛権の行使を、政府がその見解(解釈)を変更することによって容認することに強く反対し、集団的自衛権の行使を認めるような憲法違反の法案が国会に提出されることのないよう、強く求めるものである。

 

2012年(平成24年)7月27日

日本弁護士連合会
会長 山岸 憲司