最低賃金と生活保護の「逆転現象」を解消するよう改めて求める会長声明

本年7月10日に開催された中央最低賃金審議会の小委員会において、厚生労働省は、最低賃金が生活保護の給付水準を下回る「逆転現象」の生じている自治体が11都道府県になったと発表した。昨年の3道県(北海道、宮城、神奈川)から再び急増したことになる。



かい離額が一番大きいのは北海道の30円で、東京(20円)、宮城(19円)、神奈川(18円)、大阪(15円)と続いている。社会保険料等の引上げによる可処分所得の減少が影響を与えており、ますます労働者の生活が厳しくなっていることがうかがえる。このことは、今回逆転現象が生じていない地域でも同様である。



2008年7月に改正最低賃金法が施行され、同法は、最低賃金を定めるにあたっては、労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう生活保護水準との整合性を求めた(第9条3項)。しかし、同法施行後4年が経過したが、依然として、11都道府県において逆転現象が生じており、かい離の幅も拡大する傾向にある。



当連合会は、2009年7月16日に「最低賃金の引上げに関する会長声明」を公表し、2011年6月16日に「最低賃金制度の運用に関する意見書」を取りまとめ、全国的な最低賃金の引上げや、逆転現象の早期解消を繰り返し求め、最低賃金は、人たるに値する生活を保障するのにふさわしい水準まで大幅に引き上げられるべきであり、生活保護水準の切下げによって逆転現象の解消が図られるようなことがあってはならないこと、賃金の改善は東日本大震災からの復興にあたっても重要であることなどを指摘してきたところである。



先進諸外国と比較しても我が国の最低賃金は低い水準のままであり、働いても人間らしい生活ができない「ワーキングプア」が社会問題となって久しい。



今後、中央最低賃金審議会において最低賃金改定が論議され、さらには地方最低賃金審議会で各地の実情に応じた審議がなされることになるが、改正最低賃金法が定めた生活保護水準との整合性の確保は、国民の生存権保障にも直結する緊急の要請であることから、最低賃金の大幅引上げにより労働者の健康で文化的な生活の向上を図るとともに、少なくとも生活保護水準との「逆転」現象は、早期に解消させるよう改めて要望する。

 

2012年(平成24年)7月20日

日本弁護士連合会
会長 山岸 憲司