新宿区ホームレス生活保護裁判東京高裁判決に対する会長談話

昨日、東京高等裁判所は、東京都新宿区内でホームレス状態にあった男性が、生活保護申請却下処分の取り消し、生活保護開始決定の義務付け、生活保護費の支給を求めて提訴した行政訴訟について、男性の請求を認容した一審判決(東京地裁平成23年11月8日判決)を維持し、新宿区の控訴を棄却した。



男性は、2008年6月、当時57歳でホームレス状態にあったが、アパート等の住居を確保した上で就職活動をしたいと考え生活保護を申請した。しかし、新宿区福祉事務所長は、男性に対し、ホームレス自立支援法に基づく自立支援システムによる緊急一時保護センターの利用を求め、男性がこれを断ったところ、生活保護法4条1項の「稼働能力不活用」を理由として、3度にわたり生活保護申請を却下したものである。



本件では、申請当時、ホームレス状態にあった男性が、前記の「稼働能力活用要件」を充足するかが争点となった。



一審判決は、男性の主張をほぼ全面的に認め、生活保護法4条1項については、「法は不可能を強いることができない」という法格言を踏まえ、当時ホームレス状態にあった男性は、その利用し得る能力を、その最低限度の生活の維持のために活用していたものであって、稼働能力活用要件を充足していると認めた。



そして、この度の控訴審判決も一審判決の判断を維持し、新宿区福祉事務所長が行った生活保護申請の却下処分は、生活保護法4条1項の解釈、適用を誤った違法な処分であると断じた。



本判決は、現在の雇用をめぐる情勢や男性の年齢、経歴、置かれた状況に照らしてみても至極妥当なものであって、憲法及び生活保護法の本来の理念に照らして正当であり、近時、稼働能力活用要件の恣意的適用によって貧困状態にある人々を生活保護制度から不当に排除している一部の生活保護行政に警鐘を鳴らす重要な社会的意義を有する。



当連合会は、本判決を積極的に評価し、新宿区に対し、本判決を真摯に受け止め、憲法及び生活保護法に則った適切な生活保護行政を行うことを求めるとともに、全国の生活保護実施機関に対して、ホームレス状態にある人々を差別することなく生活保護制度を適切に運用するよう求めるものである。

 

2012年(平成24年)7月19日

日本弁護士連合会
会長 山岸 憲司