外国人の在留カード及び外国人住民基本台帳制度の開始に際しての会長声明

本日、2009年7月に成立した出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)、住民基本台帳法(以下「住基法」という。)及び外国人登録法の改正法が施行された。



この施行によって、外国人登録制度が廃止され、3か月を超える在留資格を持つ者(特別永住者を除く。)には、国(法務省)が新たに発行する在留カードの常時携帯義務や住居地の迅速な届出義務が課され、就労や留学の在留資格を持つ者には所属機関の届出義務、日本人の配偶者等の在留資格を持つ者には離婚等の届出義務が課されるとともに、これらの届出を懈怠したときは刑事罰が科せられることとなった。他方で、特別永住者や3か月を超える在留資格を持つ者は、地方自治体が管理する住民基本台帳に住民として記載されることとなった。



本改正は、外国人も日本人と同じく住民基本台帳に記載し、地方自治体の行政サービスの実施の基礎とすること、特別永住者については外国人登録証に代わる特別永住者証明書の常時携帯義務をなくしたことなどの積極面があるものの、種々の届出義務の強化や在留資格のない外国人を住民基本台帳の記載から排除する点などにおいて、外国人の在留管理を強化するものである。



そこで、改正法の施行によって、憲法や国際人権諸条約によって外国人に保障されている諸権利が侵害されることがないよう、次の点に留意すべきである。



1 離婚や住居地変更に厳格な届出義務が課されたことにより、国は離婚や夫婦の別居の事実を把握しやすくなり、これと併せて、日本人や永住者などの配偶者としての身分に基づいて在留する者が、6か月以上にわたってその身分を有する者としての活動を行っていない場合に、在留資格を取り消す制度が施行される。しかし、別居が継続しているといっても、ドメスティック・バイオレンス(DV)から逃れていたり、有責配偶者から離婚を求められたりしている場合にまで、在留資格が取り消されるような運用がなされてはならず、この場合には、法律に規定する「正当な理由」のある場合として取消しの対象から外すよう、また、ドメスティック・バイオレンス(DV)に当たるか否かの判断が狭きに失しないよう、国の運用を明確にするべきである。



さらに、別居や離婚によって「日本人の配偶者等」などの在留資格の継続あるいは更新ができなくなる場合にも、当該外国人が一方的に不利な立場に置かれることのないよう、調停や訴訟などの婚姻解消過程における在留を保障し、また、従来の在留実績等を考慮して「定住者」などの定住的在留資格を付与するなどの運用を明確にすべきである。



2 改正法は、在留資格を持たない外国人については、難民申請中の仮滞在許可者を除いて、行政サービスの基礎となる住民基本台帳に記載しないこととしている。しかし、在留資格がなくても、在留を特別に許可されるべく審査中であったり、難民認定申請中であるなどのために、一定期間仮放免許可が継続している者についてまで、行政サービスを受けることを否定すべきではない。また、子どもの権利条約28条や国際人権(社会権)規約12条などに鑑み、住民基本台帳に記載のない、在留資格のない外国人一般についても、緊急医療、母子保健、教育を受ける権利の保障の場面では、何ら差別なく行政サービスを受ける権利があり、このことは改正法の審議の中で政府も明確に答弁してきたところである。



これらを受けて、入管法改正法附則は一定期間仮放免を受けている者について、また、住基法改正法附則は在留資格のない者一般について、地方自治体による行政サービスを受け得るための方策を検討すべきことを規定している。現在のところ、仮放免を受けている者についてはその情報を法務省から地方自治体に提供しているものの、これらの人々を含め在留資格のない者に対する行政サービスをどのように実施するかは各地方自治体の判断に委ねられていることから、国は、各地方自治体に対し、全ての外国人に対して保障されるべき行政サービスを差別なく実施するよう十分に周知すべきである。



よって、当連合会は、国に対して、上記のとおり、日本人の配偶者などの婚姻関係や安定した在留が危うくなるような運用を行わないことと、在留資格のない者にも保障される権利の実現のための諸方策を直ちにとることを求め、あわせて、全ての外国人の権利を保障し、多民族多文化の共生する社会を構築する観点から、在留カードの常時携帯義務の廃止、住民基本台帳に記載する者の範囲の拡大など、改正法の在留管理強化の方策の見直しに着手することを求める。



また、地方自治体に対しては、改正法の施行が在留資格のない外国人にも保障される諸権利を何ら変更するものでないことを前提として、今後も対応されるよう求めるものである。

 

2012年(平成24年)7月9日

日本弁護士連合会
会長 山岸 憲司