検察における取調べの録音・録画の検証及び今後の方針に関する日弁連コメント

2012年(平成24年)7月5日
日本弁護士連合会


 

2012年(平成24年)7月4日、最高検察庁は、検察における被疑者取調べ録音・録画についての試行の検証結果(以下「検証結果」という。)を取りまとめるとともに、今後の検察における被疑者取調べの録音・録画についての方針(以下「今後の方針」という。)を取りまとめ、発表した。

 

1 試行の検証結果について

 

今回の検証結果では、取調べ全過程の録音・録画を積極評価する記載部分もある反面、いまなお密室取調べの擁護や一部録画の正当化をしようとしているかのような記載に相当の紙幅が割かれている。従来の取調べ手法を前提として、なお「全過程」録画に消極的な姿勢が認められることは、極めて遺憾というほかない。

 

しかし、制度化へ向けての試行が相当期間行われたことも事実であり、今や具体的制度化を行うべき時期である。取調べの可視化(全過程の録画)について国民の声に耳を傾け、法制審議会で早急に適切な取りまとめがなされることを期待する。

 

2 現在の試行のさらなる継続について

 

今後の方針は、特別捜査部・特別刑事部が取り扱う独自捜査事件、裁判員裁判対象事件及び知的障害によりコミュニケーション能力に問題がある被疑者等に係る事件につき、今後も引き続き、積極的に、録音・録画の試行を実施するとしている。警察においても、本年春から、裁判員裁判対象事件については、自白事件のみならず否認事件も含めることとし、録音・録画の対象場面についても、弁解録取手続や、供述調書作成前に供述内容を確認する場面などに拡大しており、知的障害者の取調べの録音・録画についても試行を開始しているが、方針では、今後は、警察と一層緊密に連携を図りつつ、試行を進めるとしている。

 

当連合会が求める「取調べの可視化」は、警察、検察を通じた取調べの全過程の録画である。検察における取調べの録音・録画についても、不十分なことは明らかであり、警察・検察を通しての「全過程」録画がすみやかに実践されるべきである。

 

3 新たに録音・録画の対象とする事件について

 

方針が、被疑者取調べの録音・録画の試行を拡大し、精神の障害等により責任能力の減退・喪失が疑われる被疑者に係る事件等について新たに試行の対象としたことについては、望ましい方向であると評価できる。

 

一方、少年については、試行をすることまでは決めずに、「録音・録画の対象とする場合の範囲や録音・録画の方法等について検討を進める」にとどまっている。しかし、少年事件において、実際には問題となる例が相当に存在していることは明らかである。これについても試行を進め、可視化を実現していくべきである。

 

4 新たな時代における取調べの在り方の検討について

 

取調べの方法に多くの問題があったことはかねてから指摘されていたところであり、これを科学的、組織的に検討すべき必要があることは明らかである。この度、最高検察庁に「新たな時代における取調べの在り方検討チーム」が立ち上げられたことについては、遅きに失した感はあるが、今後、供述心理学者やその他の専門家を交えて、精力的な検討がなされるべきである。

 

今回の検証では、なお密室取調べを肯定的に捉えようとする報告部分もあるところ、このような認識は、このチームの検討によって抜本的に見直されるべきである。

 

5 今後のさらなる検証について

 

当連合会は、2012年(平成24年)5月15日付けで「被疑者取調べの録音・録画試行の検証に関する要望書」を小川敏夫法務大臣及び笠間治雄検事総長に提出し、現在、法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会で行われている取調べの可視化の制度化に関する議論に資するような、実証的かつ公正な検証を要望した。

 

今回の検証は、検察という閉じられた世界のものにとどまっており、誠に遺憾である。今後は、問題事例などについて、供述心理学者及び当連合会が推薦する弁護士を含む第三者を交えて、より開かれたかたちで、さらなる検証を行う必要がある。また、今後行われる新たな試行に当たっては、早い段階から第三者を加えて検証を行うべきである。