リビアにおける国際刑事裁判所の弁護士・職員の拘束を懸念し、即時の釈放を求める会長声明

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2012年6月7日、国際刑事裁判所(以下「ICC」という。)内に設置された公設弁護人事務所の弁護士(Melinda Taylor)を含む職員4名が、リビアにおいて拘束された。同弁護士は、2011年に国連安全保障理事会がリビアの事態をICCに付託した結果、ICCの逮捕状が発布されたカダフィ大佐の次男サイフ・アルイスラム・カダフィ被疑者の弁護人としてICCから指名されている。同被疑者が、リビアにおいて勾留されていることから、同弁護士らは同被疑者と面会するために、リビアを訪問していた。報道によれば、拘束の容疑は同弁護士が事件とは関係のない文書を同容疑者に渡そうとしたということだが、ICCによれば同弁護士らのリビア訪問はICCの職務に関する免責特権によって保護されるべきものであるとされる。ICCは、6月9日、同弁護士らの即時釈放のためにリビア政府の協力を求める声明を発表している。



この拘束の背景には、ICCの逮捕状に基づきICC側がリビア政府に同容疑者のICCへの引渡を求めてきたが、リビア政府が自国の司法手続によって同容疑者を裁くと主張して、同容疑者の引渡を拒否していることがある。ICCの公設弁護人事務所は、ICCに付託された事態や逮捕状が発布された事件において、被疑者に正式の弁護人が選任されるまでの間、暫定的な弁護人として被疑者の刑事手続上の人権を保障するために設けられている。


1990年に第8回国連犯罪防止刑事司法会議が採択した「弁護士の役割に関する基本原則」は、「政府は、弁護士が、(a)脅迫、妨害、困惑、あるいは不当な干渉を受けることなく、その専門的職務を全て果たしうること、(b)自国内及び国外において、自由に移動し、依頼者と相談しうること、(c)承認された職業上の義務、基準及び倫理に従ってなされた行為に対して起訴あるいは行政的、経済的その他の制裁を受けたり、そのような脅威にさらされないこと、を保障するものとする。」と述べて、法律家の職務を保障している。ICCの弁護士に対する拘束は、この基本原則に明白に違反するのみならず、弁護士による人権擁護活動を不可能なものとするきわめて深刻な事態である。このような事態が放置されるのであれば、近年、国際社会で重要性を増している国際刑事裁判手続において、公正な裁判を実現するための弁護士の職務を遂行することは、著しく困難となる。


日本弁護士連合会は、以上の理由で、リビアにおけるICCの弁護士及び職員の拘束を深く懸念するとともに、リビア政府に対し、これらの者を即時に釈放するための協力を求める。あわせて、ICC規程の当事国であり、最大の資金拠出国である日本政府に対しても、このICCの弁護士及び職員の釈放のための行動を取られるように求める。

 

2012年(平成24年)6月15日

日本弁護士連合会
会長  山岸 憲司