「東電OL殺人事件」再審開始決定に関する会長声明

本日、東京高等裁判所第4刑事部は、「東電OL殺人事件」に関する再審請求事件(請求人:ゴビンダ・プラサド・マイナリ氏)について、再審を開始するとともに、刑の執行を停止する旨の決定をした。



本件は、1997年(平成9年)3月8日の深夜、東京都渋谷区にあるアパートの一室において女性が殺害され、現金が強取されたという事件である。ゴビンダ氏は、同年3月23日に全く別件である出入国管理及び難民認定法違反の容疑で逮捕されて以降、現在に至るまで本件への関与を一貫して否認し続けている。



第一審判決は、ゴビンダ氏が現場に入ったのは別の機会であるとのゴビンダ氏の弁解を排斥できないとした上で、現場に残されていた陰毛にはゴビンダ氏や被害者以外の第三者のものも含まれており、犯行時に当該第三者が現場に存在した可能性も払拭できないとして、ゴビンダ氏に対して無罪判決を言い渡した。しかし、控訴審判決は、ゴビンダ氏以外の第三者が現場に入ることはおよそ考え難く、ゴビンダ氏の弁解も信用できないなどとして、ゴビンダ氏に対して無期懲役の有罪判決を言い渡した。そして、最高裁判所も上告を棄却し、控訴審判決が確定した。



その後、ゴビンダ氏は、2005年(平成17年)3月24日、東京高等裁判所に再審請求の申立てを行い、当連合会もこれを支援してきた。



本日の再審開始決定は、被害者の体内に残されていた精液や現場に遺留されていた陰毛等について実施されたDNA型鑑定の結果に基づき、ゴビンダ氏以外の第三者が現場に入って被害者と性交し、その後、犯行に及んだ可能性があり、ゴビンダ氏を犯人と断定するには合理的な疑いが残ると判断したものである。これは、再審請求の申立てがなされた後に、検察官から上記の精液や陰毛等の証拠物の存在が明らかにされ、裁判所の要求を受けて検察官がDNA型鑑定を実施したことによって新たに判明したものである。



このように、裁判所は、検察官に対して証拠開示を求めるとともに、科学技術を利用して真相究明に努め、その結果を踏まえて確定判決の誤りを是正し、再審開始を決定したものであって、このような裁判所の姿勢は評価できる。他方、検察官は、裁判所からの要求がなされるまでは、弁護団の証拠開示請求に対して拒絶する対応に終始していたが、ようやく検察官から開示された証拠の中にはゴビンダ氏以外の第三者の関与を強く推認させる証拠が存在するなど、検察官による証拠の不開示が冤罪を生み出した原因であることが明らかになった。このような検察官の対応は誠に遺憾である。



当連合会は、検察官に対し、執行停止決定に従って直ちにゴビンダ氏を釈放し、かつ今回の再審開始決定に対し異議申立てを行わないよう求めるものである。



また、当連合会は、かねてより、全面的証拠開示制度の実現を求め、冤罪を防止するためには必須のものであるとの意見を述べてきたが、本日の再審開始決定を契機として、証拠リストの交付など全面的証拠開示制度の実現を喫緊の課題として全力で取り組む所存である。

 

2012年(平成24年)6月7日

日本弁護士連合会
 会長 山岸 憲司