名張毒ぶどう酒事件第7次再審請求差戻し異議審決定についての会長声明

本日、名古屋高等裁判所刑事第2部(下山保男裁判長)は、奥西勝氏に係る名張毒ぶどう酒事件第7次再審請求の差戻し異議審につき、再審開始決定を取り消して、再審請求を棄却する旨決定した。



本件は、三重県名張市で発生した、農薬が混入されたぶどう酒を飲んだ女性5名が死亡し、12名が傷害を負った事件であり、奥西氏は一審で無罪となったものの控訴審で逆転死刑判決を受け、最高裁判所で上告が棄却され、死刑判決が確定していた。当連合会は、1973年(昭和48年)に人権擁護委員会において名張事件委員会を設置し、以来奥西氏の救済のため最大限の支援を行ってきた。



本件は、2005年(平成17年)4月に名古屋高等裁判所刑事第1部(小出錞一裁判長)が再審開始を決定したが、検察官の異議申立てにより、2006年(平成18年)12月に名古屋高等裁判所刑事第2部(門野博裁判長)が再審開始決定を取り消し、2010年(平成22年)4月に最高裁判所が異議審決定を取り消して名古屋高等裁判所に差し戻すという経過をたどった。



最高裁判所の差戻し理由は、本件発生直後に三重県衛生研究所が行った薬物同定試験において、本件犯行に使用された農薬がニッカリンTであったとすれば、主成分であるTEPP(テップ)と共に副生成物を示すスポットが検出されるはずであるのに、本件の事件検体である飲み残りのぶどう酒からは、この副生成物を示すスポットが検出されなかったことにつき、異議審決定が「検出することができなかったと考えることも十分に可能である」とした判断は、「科学的知見に基づく検討をしたとはいえず、その推論過程に誤りがある疑いがある」というものであった。



今回の差戻し異議審決定(以下「本決定」という。)は、新証拠によって生じた疑問が解消されていないにもかかわらず、検察官も主張しておらず、鑑定人さえ言及していない独自の推論をもって、新証拠が「犯行に用いられた薬剤がニッカリンTではあり得ないということを意味しないことが明らかである」として、再審請求を棄却した。本決定は、最高裁判所が求めた科学的知見に基づく検討を放棄し、「疑わしきは被告人の利益に」の原則に反し弁護人に無罪の立証責任を転嫁するものである。



新証拠の証拠価値を正当に判断すれば、犯行に使用された毒物がニッカリンTであるとは認められず、奥西氏が犯人であることについて重大な疑いが生じていることは明らかであり、奥西氏の再審は直ちに開始されなければならない。



当連合会は、特別抗告審において本決定が取り消され、再審開始が決定されることを期するものである。当連合会は、今後とも、奥西氏が無罪判決を勝ち取り、死刑台から生還するときまで、あらゆる支援を惜しまないことをここに表明する。

 

2012年(平成24年)5月25日

日本弁護士連合会
 会長 山岸 憲司