裁判員法施行三周年を迎えて(会長談話)

本日、裁判員法が施行されて三年が経過した。


これまでに公表された裁判員経験者のアンケート結果や、裁判員経験者の記者会見では、裁判員として裁判に参加したことが良い経験であったとの感想が多く述べられている。また、裁判員裁判事件において言い渡された無罪判決の中には、市民の常識によって有罪とすることに疑問を呈されたと窺われるものがある。


これらによれば、裁判員の方は積極的に審理及び評議に参加して職務を果たしているものと考えられる。そして、裁判員制度は、市民の間に確実に定着しつつあり、無罪推定等の刑事裁判の原則に忠実なより良い刑事裁判を実現する機能を果たしていると評価することができる。
 

さらに、裁判員制度を契機として、公判審理における直接主義・口頭主義の実質化、当事者主義の重視、保釈の運用改善等、一定の変化が生じつつある。裁判員制度は、これまで我が国の刑事司法が抱えてきた様々な問題を改めようとする契機になっている。


もっとも、これまでの運用を通じて、課題も明らかになった。裁判員制度のさらなる定着を目指すためには、市民が参加しやすい環境を整えるための運用面での改善や、裁判員の経験の共有が過度に妨げられることのないよう、守秘義務に関する罰則規定の改正等が必要である。


また、裁判員制度を契機とした刑事司法改革はまだ道半ばである。裁判員制度の下における被告人の防御権の保障を十全なものとするためには、公判前整理手続における証拠開示規定の改正や、公訴事実等に争いのある事件において公判手続を二分する規定の新設等も必要であり、当連合会は、これらの課題について、本年3月15日付けで「裁判員法施行3年後の検証を踏まえた裁判員裁判に関する改革提案」を取りまとめて公表したところである。


当連合会は、これらの制度改革及び運用改善が機を逸することなく実現されるよう、全力を尽くすとともに、法廷弁護技術研修をはじめとする各種の実践的研修や経験交流会等への取組を通じて、裁判員裁判事件における弁護活動の質の向上にも全力で取り組み、市民のさらなる信頼を得るべく努力する所存である。



2012年(平成24年)5月21日

日本弁護士連合会
 会長 山岸 憲司