ALS患者の介護支給量義務付け訴訟判決に関する会長談話

和歌山地方裁判所は2012年4月25日、筋萎縮性側索硬化症(以下「ALS」という。)患者が1日24時間の介護を求めていた裁判で、和歌山市に対し、介護保険と合わせて1日当たり21時間以上の介護支給量を義務付ける判決を言い渡し、和歌山市が控訴を断念したことにより、同判決が確定した。



同判決は、市町村は支給決定に際し、障がいのある人ひとり一人の個別具体的な支援の必要性を考慮するべきとの基本的な考え方を示し、見守りを含めた介護の必要性やALSという疾患の特性も踏まえ、1日当たり8時間余りという従前の支給決定を違法とした。



憲法に基づく基本的人権として、重度の障がいのある人も、障がいの有無により分け隔てられず地域で自立した生活を営む権利を有している。



しかし、現在、十分な介護支給量が保障されず、自立生活を送れずにいる障がいのある人、難病患者が全国に多く存在する。特にALS患者等の医療的ケアを要する者は、公的介護の貧困のために人工呼吸器の装着をためらい、あるべき命を落とす者も少なくない。必要な介護時間の公的な保障は、このような者らが尊厳ある「生」を選択するための前提条件である。



本判決は近時の東京地方裁判所平成18年11月29日判決及び平成22年7月28日判決(第一次・第二次鈴木訴訟判決)、大阪高等裁判所平成23年12月14日判決(石田訴訟判決)等でも示された、市町村は障がいのある人や難病患者の個別事情に則した十分な介護支給量を保障すべきとの法解釈を改めて確認したが、かかる法解釈は既に法理として確立したといえる。



当連合会は、2011年10月7日、第54回人権擁護大会において、「障害者自立支援法を確実に廃止し、障がいのある当事者の意思を最大限尊重し、その権利を保障する総合的な福祉法の制定を求める決議」を採択し、障がいのある人の地域での自立生活を可能とするための支援を量的にも質的にも保障することを強く求めた。更に、2012年2月15日、「障害者自立支援法の確実な廃止を求める会長声明」を公表した。



当連合会は、改めて国に対し上記決議の実現を求めるとともに、何人も障がいの有無に関わらず地域で自立生活を営む権利を有していることを確認し、全ての人に十分な介護支給量が公的に保障される法制度の確立及び運用を国及び市町村に強く求めるものである。 

 

2012年(平成24年)5月14日

日本弁護士連合会
 会長 山岸 憲司

 

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