違法ダウンロードに対する刑事罰の導入に反対する会長声明

報道等によれば、音楽等の私的違法ダウンロードについて、自民党及び公明党は、政府提案の著作権法の一部を改正する法律案を修正し、刑事罰(2年以下の懲役または200万円以下の罰金)を設ける方針であり、民主党も受入れについて検討しているとのことである。



当連合会は、昨年12月15日付けで「違法ダウンロードに対する刑事罰の導入に関する意見書」を取りまとめ、違法ダウンロードは、コンテンツ産業の健全な成長を阻害するおそれのある由々しき問題であるとの認識を持ちつつも、直ちに刑事罰を導入することに対しては反対の意見を表明した。




その主な理由は、①私的領域における行為に対する刑事罰を規定するには極めて慎重でなければならないところ、私人による個々の違法ダウンロードによる財産的損害は極めて軽微であり、未だ刑事罰を導入するだけの当罰性ある行為であるとは認識されるには至っていないと考えられること、②民事上、私的使用目的であっても例外的に違法とされている複製行為(著作権法30条1項柱書の適用が除外されている行為)のうち、ダウンロードのみに刑事罰を導入することは刑の均衡を失することになること、③違法アップロードに対する罰則規定の活用や著作権教育の一層の充実など、他により制限的でない違法ダウンロード規制手段が存在すること、④ダウンロードを民事上違法とした平成21年改正著作権法の適用の実態を見極める必要があること、⑤刑事罰には民事罰よりも抑止力が期待できるとの意見があるが、刑事罰の対象とするだけで違法ダウンロードを中止するかについては疑問があることなどである。




仮に、違法ダウンロードに対する刑事罰が導入されたとしても、音楽関連ファイル数のみで年間推計約12億ファイルにも及ぶとされている(「動画サイトの利用実態調査検討委員会報告書」(2011年8月))違法ダウンロード行為者を全て検挙することは非現実的であり、警察による恣意的な運用がなされるおそれがあることから、国民のネットワーク利用に対する萎縮的効果は計り知れないものがある。また、インターネットの利用者には青少年も多いため、その影響についても考慮されるべきである。


海外において、刑事罰が定められている国においても、それが積極的には運用されていないという実態があり、国際的な比較からも、現時点で刑罰化を急がなければならないとは考えられない。


したがって、まずは、違法アップロードの検挙実績とその成果を慎重に検討し、違法アップロード対策をより充実させることを検討すべきであり、これを抜きにして違法ダウンロードを直ちに刑事罰の対象とすることは、あまりにも拙速と言わざるを得ない。



 

よって、今回の違法ダウンロードに対する刑事罰の導入には反対であり、今通常国会において拙速な修正案の提案やそれに関する審議がなされることがないように強く求める。


 

2012年(平成24年)4月27日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児