「検察改革の進捗状況」についての日弁連コメント

2012年(平成24年)4月11日
日本弁護士連合会


 

2012年(平成24年)4月5日、法務省は、「検察改革の進捗状況」(以下「進捗状況」という。)を発表した。


注目されたのは、全国で実施された検察庁における取調べの録音・録画の試行状況である。「進捗状況」によれば、特捜部等の独自捜査事件69件のうち67件において取調べの録音・録画を実施し、うち28件については全過程を録音・録画したとされている。また、知的障害によりコミュニケーション能力に問題がある被疑者について、388件の取調べを録音・録画し、うち120件について全過程を録音・録画したとされている。裁判員裁判対象事件については、1277件において、取調べの録音・録画を実施したという。


検察改革の一環として、検察庁が取調べ全過程の録画を含む試行に踏み切ったことは、取調べの可視化(取調べの全過程の録画)に通ずる取組として、評価できる。しかしながら、試行の対象事件の範囲は非常に限定されている上、その限定された範囲ですら、全過程の録画を実施していない例が相当数あることはきわめて遺憾である。取調べの可視化は、取調べを適正化するとともに、虚偽自白、ひいては冤罪を防ぐことこそがその最大の目的である。これに対し、取調べの一部のみを録画・録音することは、その目的に沿わないばかりか、取調べ全過程の評価を誤らせるおそれがあり、かえって危険である。当連合会は、より積極的に取調べの全過程の録画・録音の試行を進め、その試行の対象範囲も拡大していくことを求める次第である。


なお、取調べの録画・録音以外の改革策については、その検証や情報開示自体が十分でないものがあると言わざるを得ない。特に、検察基本規程「検察の理念」(以下「基本規程」という。)の施行状況についての検証や、監察指導部の運用状況についての情報開示は、不十分であり、改革の進捗状況を見て取ることができない。例えば、基本規程には、「被疑者・被告人等の主張に耳を傾け、積極・消極を問わず十分な証拠の収集・把握に努め、冷静かつ多角的にその評価を行う。」との定めがあるが、被告人にとって有利な証拠が十分に収集され、それらが漏れなく被告人及び弁護人に開示されるようになったのか、「進捗状況」からは不明である。また、監察指導部の運用状況については、監察結果別件数として、「指導等の措置をとったもの 2件」「特段の措置不要と判断したもの 90件」「指導等の措置まではとらなかったが、調査の過程や原庁への通知文書で留意を促したもの 4件」と公表されている。しかし、「指導等の措置」や「通知文書」の内容は不明であるし、「特段の措置不要」とされた事案の内容や判断に至った手続も不明である。90件もの事案を措置不要と判断した運用には疑問も残るし、仮に適正に運用されているとすれば、そのような疑問が解消されるに十分な情報開示がなされなければならない。


当連合会としては、検察改革のさらなる推進を求め、えん罪を生まない刑事司法制度を作るため、今後もその改善に全力で取り組む所存である。