子どもの成長発達権を侵害する保育所面積基準の緩和を行わないよう求める会長声明

2011年5月2日に施行された「地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律」により改正された児童福祉法は、同改正附則4条において、保育の実施への需要その他の条件を考慮して厚生労働省令で定める基準に照らして厚生労働大臣が指定する地域にあっては、保育所に関わる居室の床面積については厚生労働省令で定める基準を標準として定めるものとするとして、「指定地域」においては、条例によって保育所の面積基準を緩和し得るという重大な例外を設けている。



指定地域たる24区市を抱える東京都は、0~1歳児を年度途中に定員を超えて入所させる場合、保育室の面積基準を1人当たり3.3平方メートルから2.5平方メートルに緩和することを認める条例(東京都児童福祉施設の設備及び運営の基準に関する条例)を制定した。また、指定地域の一つである大阪市でも、これまで「0歳児5平方メートル、1歳児3.3平方メートル」を基準としてきたところ、この基準を0~5歳まで全て、1人当たり1.65平方メートル(畳約1枚分に相当)に引き下げることができるように基準を緩和する条例(大阪市児童福祉施設最低基準条例)を制定した。



これらの基準の緩和は、従来の保育所最低基準における「0~1歳児は3.3平方メートル、2歳以上は1.98平方メートル」という基準を大幅に下回るものであり、児童福祉法45条1項の「児童の身体的、精神的及び社会的な発達のために必要な生活水準を確保するもの」とは到底いい難い。待機児童解消を名目としながら、子どもの安全・安心な成長発達を大きな危険にさらすことと引き換えに、保育所の居室面積基準の緩和をすることを許容するものである。



これまで当連合会は、「児童福祉法改正に関する意見書」(1996年9月20日)等で児童福祉施設最低基準の見直しを求めてきた。また、「地域主権改革に関し、保育、教育の保障の観点から、慎重かつ徹底した審議等を求める意見書」(2010年12月17日)においては、保育所最低基準、中でも、保育所における子どもの居室(保育室)の床面積にかかる基準が子どもの成長発達権保障に果たす極めて大きな役割を具体的に明らかにした上で、上記のような例外を認めて国の統一基準に反する状況を是認するとすれば、子どもの健全な成長発達や安全を犠牲にし、保育の質を無視して単に量的に受入れ児童を増やすことになり、子どもが安全・安心に成長発達する権利を侵害するものといわざるを得ないと指摘し、懸念を表明した。



上記のような保育所面積基準を緩和する条例制定の動きは、当連合会の懸念が現実化しつつあることを示す実例であり、条例が制定され、保育所面積基準の緩和が現実化すれば、子どもの成長発達権が著しく侵害されてしまうことはいうまでもない。 



当連合会は、子どもの成長発達権を保障する観点から、改めて、改正児童福祉法附則4条が保育所面積基準の緩和を認めていること自体の再考を求めるとともに、これによって許容されている保育所面積基準の緩和が現実化し、子どもの成長発達権が侵害されるような事態を避けるべく、指定地域を含む都道府県もしくは指定地域の市区町村に対し、子どもの成長発達権を侵害する保育所面積基準を緩和する条例の制定を行わないこと、また、たとえ緩和することを認める条例が制定されてもそれに沿った保育所面積基準の緩和を現実に行わないことを求める。

 

2012年(平成24年)4月4日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児