「総合特別事業計画」において原子力損害賠償紛争解決センターの総括基準等を東京電力株式会社への直接請求手続においても遵守することを求める会長声明

原子力損害賠償支援機構(以下「支援機構」という。)及び東京電力株式会社(以下「東京電力」という。)は、今後10年間の経営改革の道筋を示す「総合特別事業計画」を4月半ばをめどに政府に提出する予定と報道されている。



支援機構及び東京電力は、昨年10月28日に「特別事業計画」を取りまとめ、11月4日に政府の認定を受け、さらに本年2月13日にその変更が認定されているが、同計画において「親身・親切な賠償のための5つのお約束」の徹底・完遂を掲げ、その中で「和解仲介案の尊重」をうたい、被害者の立場に立ち、原子力損害賠償紛争解決センター(以下「センター」という。)における審理の円滑化への協力を始め、紛争処理の迅速化に積極的に貢献し、センターから仲介案が示された場合はこれを尊重して対応するとしている。



しかし、実際には、昨年9月1日にセンターに申し立てられたいわゆる第1号事件において、和解仲介委員から昨年12月27日に提示された和解仲介案について、申立人が十分ではないものの早々にこれを受諾したのに対し、東京電力は最終的には2月27日の期日において全面的に受諾したものの、1月26日の期日において、和解仲介案の一部を拒絶するなど、いたずらに審理を長引かせる対応を取った。



このような東京電力の姿勢について、センターは、1月30日付けで取りまとめた活動状況報告書において、東京電力が財物価値喪失等や中間指針で類型化されていない事項の賠償請求についてその支払を拒むなど、中間指針について東京電力の解釈に沿わない立場を受け入れないかたくなな対応がみられ、こうした態度が審理の空転や遅延につながっていると指摘していたところであり、当連合会も、これまで何度か「和解仲介案の尊重」義務を果たすよう求めてきたところである。



以上のような現状からすると、東京電力によって「和解仲介案の尊重」義務が十分に果たされているとはいえず、このままでは、迅速かつ適正な被害者への賠償のための担保措置として十分に機能しているとはいえない状況であるといわざるを得ない。



センターは、上記報告書において、本件事故による賠償総件数は百万件を大きく上回り、そのうち紛争性のあるものは十万件を上回る可能性があり、現在の人的・物的態勢では、12月末までに申し立てられた案件への対応までで限界に近づいているとの認識を示している。それを踏まえたまとめとして「当面は、和解の実例、総括基準を示すことに全力を傾注する一方、これらに準拠した被害者と東京電力間での直接交渉による解決を促進する環境を整備していきたい。この意味で、東京電力は、特別事業計画で、当センターの和解案尊重を約束しており、当センターが示した和解案や諸基準を、被害者との直接交渉においても尊重することが求められる。」と述べており、当連合会としても、膨大な数に上る被害者の迅速かつ適正な損害賠償の実現のためには、センターの示した方策以外に取るべき手段がないと考える。



したがって、当連合会は、①支援機構及び東京電力に対し、今後策定する「総合特別事業計画」において、「和解仲介案の尊重」の内容として、少なくともセンターが示した総括基準や和解の実例について、東京電力は被害者との直接交渉においてもこれを尊重する義務を負うことを明記するよう求める。また、②東京電力に対し、東京電力所定の請求書式以外の請求方法であっても受け付けるなどの柔軟な対応を取ることを求める。さらに、③政府に対し、「総合特別事業計画」を認定するに当たっては、東京電力が被害者との直接交渉においても、少なくともセンターが示した総括基準と和解の実例に従い、迅速かつ適切な賠償の実現に努めることを条件とすることを求めるものである。

 

2012年(平成24年)4月3日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児