「捜査手法、取調べの高度化プログラム」についての日弁連コメント

2012年(平成24年)3月29日
日本弁護士連合会

 

警察庁は、国家公安委員会委員長が主催する「捜査手法、取調べの高度化を図るための研究会」の提言を受けて、この度、「捜査手法、取調べの高度化プログラム」(以下「本プログラム」という。)を発表した。


本プログラムは、警察における取調べの録画の試行拡充については、「取調べの録音・録画の在り方を検討するに当たり実証的資料を収集するために」、数多くの試行を積み重ねる必要があるとし、積極的に試行を実施するとしている。そして、「都道府県警察における試行の実施状況を踏まえつつ、録音・録画機器の整備を促進する」とされている。この文言どおり、全国で録音・録画機器が速やかに、かつ十分に整備され、積極的に録画の試行がなされることを期待する。


本プログラムは、具体的には、裁判員裁判対象事件について、否認事件等にも対象を拡大するとともに、逮捕直後の弁解録取の状況を対象とすること、同一事件で複数回実施することなど、取調べの様々な場面を録音・録画の対象とすることとしており、取調べの録音・録画の在り方について検討するに当たり実証的資料を収集するという目的に照らせば、取調べの全過程の録画・録音がなされる場合もあることは当然である。このことは、国家公安委員会委員長が国会における答弁でも明言したところである。


また、本プログラムは、知的障がいを有する被疑者に係る事件において、罪種を限定せず録音・録画の試行を開始し、可能な限り広く録音・録画を実施することとしている。既に検察庁では、1年以上前からそのような取扱いがなされているところであり、今回の警察での試行開始により、取調べの最初からの全過程を録音・録画し、適正な捜査を確保した上で、その特性や取調べの在り方に関する調査研究が進められるべきである。


これに加え、本プログラムは、「捜査手法の高度化・適正化の推進」として、心理学の研究成果を取り入れ、また諸外国において効果的に活用されている手法等を参考にして、取調べ技術の向上及びそのための研修・訓練の方法に関する調査研究を推進することとしている。取調べ技術向上のためにも、できるだけ広く録画を行ってその検討を行うことが望ましく、さらにはこれらが順調に進展すれば、取調べ技術の向上により、現在多くの捜査官が有する「録画をすると捜査に支障がある」とする懸念も払拭されるであろう。取調べの録画・録音及び取調べの高度化について本プログラムが文字どおり遂行され、警察における違法・不当な取調べが絶滅することを強く期待したい。なお、捜査手法の高度化については、取調べの録画・録音の試行とは別に、不断に検討がなされるべきものであろう。


今後、このような取調べの録画の試行拡充の状況をも踏まえつつ、法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」において審議がなされることとなるが、取調べの可視化(取調べの全過程の録画)が早急に制度化されるよう、当連合会は引き続き精力を傾けていく所存である。