刑事公判中の偽証嫌疑による証人逮捕・勾留に関する会長声明

新潟地方裁判所新発田支部に係属中の窃盗等被告事件において、弁護側の証人として被告人のアリバイを証言した者につき、新潟地方検察庁は、本年1月27日、偽証の疑いで逮捕し、新潟簡易裁判所はその勾留を認めた。


被告人が無罪主張をしている事件の公判係属中に証人を偽証の嫌疑で逮捕・勾留することは、公判中心主義、当事者対等主義の原則に背くものである。検察官は、証人の証言の信用性については法廷において弾劾すべきであり、証人逮捕という権力的な方法を安易に用いるべきではない。とりわけ本件のように被告人が無罪を主張している事件においては、証言の内容が有罪、無罪を決定する上で極めて大きな影響を与えるだけに、特に慎重でなければならない。


偽証罪とは、「客観的事実に反する証言をする」ことではなく、「自己の記憶に反する陳述をすること」であるが、今回のような事態が繰り返されれば、今後刑事裁判の法廷において証言しようとする証人に対し、検察側のストーリーに沿った証言をしなければならないという心理的圧迫を与え、証人が自己の記憶に基づいて自由に証言することが困難になる。その結果、被告人の公正な裁判を受ける権利が奪われることになりかねない。検察官は、証言の信用性につき裁判所の判断を経る前に、当該証人の身体拘束等を伴う強制捜査を行うことは厳に慎むべきである。


当連合会は、1968年第11回人権擁護大会において、いわゆる八海事件などの刑事事件公判中に、偽証嫌疑による証人の逮捕が行われたことを受け、被告人が無罪を主張する事件の公判係属中においては、「検察官は公訴事実の立証につき証人逮捕という権力的な方法をとらず、他の合理的方法によるべきである。」と決議し、法務大臣及び検事総長に対して執行している。


また、2001年1月19日には、上記決議に違背する事態が再来したとして、「法廷における真実の証言を確保し、被告人の公正な裁判を受ける権利を保障する見地から、前記決議の趣旨が徹底され、同様の事態を今後招くことのないよう求めるものである」と抗議の会長声明を発している。


当連合会は、公判中心主義、当事者対等主義の諸原則の下、被告人の公正な裁判を受ける権利が保障され、同様の事態が再び繰り返されることのないように強く求めるものである。

 

2012年(平成24年)3月9日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児