東住吉放火殺人事件再審開始決定に関する会長声明

昨日(2012年3月7日)、大阪地方裁判所第15刑事部は、いわゆる「東住吉放火殺人事件」に関する再審請求事件につき、再審を開始する旨の決定を行った。



本件は、1995年7月22日、大阪市東住吉区内の家屋で火災が発生し、同家屋に居住する小学生が亡くなった事件であり、小学生の母親とその内縁の夫が保険金目的による放火殺人の被疑者として逮捕・起訴され、2006年12月までにいずれも現住建造物等放火・殺人・詐欺未遂の罪で無期懲役の判決が最高裁で確定した後、2009年7月から8月にかけて再審請求を申し立てていたものである。



本件事件は、本件犯行と請求人らを結び付ける直接証拠が請求人らの自白のみであり、その任意性・信用性が激しく争われている事案である。



この点、今回の再審開始決定は、請求人らの自白は、放火方法という自白の核心部分において科学的見地から不自然不合理な内容である上、本件火災時の客観的状況ともそぐわないこと、自白の重要部分に不自然不合理な点や不合理な変遷が多く見られることなどを指摘し、請求人らが本件犯行の犯人であると合理的な疑いを容れない程度に認めるだけの証明力はないと判断した。



また、本件火災の原因についても、自然発火と認定するまでには至らないものの、その可能性を積極的に排斥する証拠関係にないと指摘し、請求人らの自白の信用性に対する疑問ともあいまって、その有罪認定に疑問を差し挟ませる事情と判断した。



これは、「疑わしいときは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則を確定判決の事実認定に対しても適用したものとして評価できる。



これまでの多数の冤罪事件と同様、本件においても客観的事実の軽視と自白強要・自白偏重の捜査の弊害が問題となっており、当連合会としては、あらためて取調べの可視化(全過程の録音・録画)を求める。


また、本件においては、再審請求後に検察官が開示した証拠の内容も踏まえて実施された再現実験の結果が自白の信用性を判断する重要な根拠となっているが、これらの証拠の開示に至るまでには検察官の抵抗があり、今なお多数の未開示証拠があることに鑑みると、検察官手持ち証拠の全面開示の実現は急務である。


当連合会は、検察官に対し、今回の再審開始決定に対して即時抗告を行うことなく速やかに再審公判を開始させるとともに、本件において今なお開示されていない証拠を全面的に開示するよう求めるものである。

 

2012年(平成24年)3月8日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児