原子力損害賠償紛争解決センター申立第1号事件和解仲介成立に関する会長談話

本日2月27日、福島県大熊町から東京都内に避難している男性が原子力損害賠償紛争解決センター(以下「センター」という。)に昨年9月1日に申立てを行った第1号事件において、昨年12月27日にセンターの仲介委員が示していた和解仲介案につき、東京電力株式会社(以下「東京電力」という。)が、これを実質的に全面的に受諾する形で和解が成立することとなった。



本和解の成立により、十分ではないものの、当該申立人である被害者の方の生活再建のための一つの足がかりができたともいえる。



本件和解成立の意義の第1は、東京電力側が、当初は消極的な姿勢を示していたものの、センターの和解仲介案を全面的に受諾したことである。このことにより、今後はセンターの和解仲介案に則り紛争の早期迅速な解決を行う見通しができた。



第2に、本件和解の内容は、①原発事故による財産価値の減少等に対する賠償を認めたこと、②中間指針で目安として示された金額を超える慰謝料の増額を認めたこと、③仮払い補償金を本件和解時に精算しないとしたこと、④清算条項を明記せず将来の追加請求の可能性を認めたことなどであり、被害回復の実情に沿ったものと評価し得る。



東京電力の和解仲介手続におけるこれまでの姿勢について、センターは、1月30日付けで取りまとめた活動状況報告書において、東京電力が財物価値喪失等や中間指針で類型化されていない事項の賠償請求についてその支払を拒むなど、中間指針について東京電力の解釈に沿わない立場を受け入れないかたくなな対応がみられ、こうした態度が審理の空転や遅延につながっていると指摘していた。



当連合会は、東京電力がこうしたセンターの指摘を真摯に受け止め、本件和解の成立を契機として、真の意味で誠実かつ迅速な損害賠償の履行に努めることを求めるものである。



他方、センターは、上記活動状況報告書によれば、昨年末までわずか3件という和解実績しかなく、初期段階でありある程度やむを得ないとはいうものの、所期の紛争解決機能を十分果たしているとはいえず、センター自ら指摘しているとおり、課題も多い。センターに対しては、審理方法の工夫を始め公正かつ迅速な審理により被害者の早期救済を実現するよう、更なる改善の努力を求める。



また、センターは、その態勢について、上記活動状況報告において、現在の仲介委員、調査官及び事務職員の態勢では限界に近づいており、人的・物的態勢の拡充も喫緊の課題であると述べている。センターへの申立ては増加の一途をたどり、2月は約300件、累計で1000件を超えている。当連合会は、これまで150名以上の弁護士を仲介委員、調査官としてセンターに推薦してきたが、仲介委員、調査官のいずれも、1人で十数件から数十件もの事件を抱え、調査官に至っては待遇上非常勤であるにもかかわらず、実質的には常勤状態で、さらに休日もなく朝から夜遅くまで勤務している状態にある者が相当おり、また、事務職員も絶対的に不足しており、これら人的・物的態勢の不足がセンターの運営に大きな支障を来しつつあると聞いている。



このようなセンターの状況は、被害者の迅速な救済に影響を及ぼす重大な問題であり、当連合会は、政府に対し、センターに対する十分な人的・物的態勢を整えるべく、適切な予算措置を早急に講じることを強く要望するものである。



2012年(平成24年)2月27日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児