ストレステストに基づく大飯原子力発電所の運転再開に関する会長声明

定期検査で停止中の原子力発電所を再稼働する条件とされている安全評価(ストレステスト)について、経済産業省原子力安全・保安院は、関西電力株式会社が提出した大飯原発3号機及び4号機の一次評価結果を妥当とし、審査書を原子力安全委員会に報告した。現在、原子力安全委員会で審査中とされている。



当連合会は、かねてから、原子力発電所の新増設の停止と、既存の原子力発電所の段階的な廃止などを求めてきたところ、2011年(平成23年)7月15日付け「原子力発電と核燃料サイクルからの撤退を求める意見書」において、さらにこれを具体化し、廃止に向けての道筋を以下のとおり提言した。



(1) 原子力発電所の新増設(計画中・建設中のものを全て含む。)を止め、再処理工場、高速増殖炉などの核燃料サイクル施設は直ちに廃止する。



(2) 既設の原子力発電所のうち、①福島第一及び第二原子力発電所、②敷地付近で大地震が発生することが予見されるもの、③運転開始後30年を経過したものは、直ちに廃止する。



(3) 上記以外の原子力発電所は、10年以内のできるだけ早い時期に全て廃止する。廃止するまでの間は、安全基準について国民的議論を尽くし、その安全基準に適合しない限り運転(停止中の原子力発電所の再起動を含む。)は認められない。



大飯原発は、敷地近傍の活断層についての評価が過小ではないかとの指摘がされており、上記(2)の②に該当する可能性がある。また、上記(3)に挙げた安全基準についての国民的議論は全くなされていない。



そもそも、ストレステストは、原子力安全委員会が原子力安全・保安院に対し、福島原発事故を受けて、事故の再発防止を目的として設計上の想定を超える外部事象に対する原発の総合安全評価を求めたことに応じて、原子力安全・保安院が発案したものであるが、その内容は、原発の設置根拠となっている設置許可申請等を基準として、当初の設計時に想定していた基準地震動や津波の何倍まで安全性が確保できるかの確認をするというものにすぎない。



このストレステストについては、法的根拠がないということに加えて、実質的にも以下のような根本的な疑問がある。



第1に、地震・津波について想定の見直しがされていないという点である。福島原発事故の大きな原因は、地震・津波の規模に対する国及び事業者の認識が不十分であったことにあり、従前の基準やその妥当性の評価が誤っていたことは明らかである。ところが、ストレステストでは、従前の基準や評価を変更しないまま、それを前提として行われている。



第2に、老朽化の視点に乏しいという点である。原子炉圧力容器の中性子照射脆化や、配管の減肉・応力腐食割れなど、原発は運転に伴って確実に老朽化する。にもかかわらず、ストレステストは、新品としての性能を保っているという架空の前提の下で行われている。



第3に、より根本的な、福島原発事故の原因がいまだ究明されていないという点である。政府も東京電力株式会社も、福島原発事故の原因は、津波による全電源喪失にあるとしている。これに対して、地震動で配管が破壊された可能性があることが、専門家から指摘されている。仮に、地震動による配管の破断があったとすれば、これは、全ての原発に共通である耐震安全性の考え方そのものを見直すことが必要となる。福島原発事故の原因については、昨年12月に、東京電力株式会社の福島原子力事故調査委員会及び政府の東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会から、それぞれ中間報告が提出されたところであるが、これらにおいて事故原因が究明されたとはいい難い。また、これらとは別に、新たに国会に設けられた東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(以下「国会事故調査委員会」という。)はその活動を始めたばかりであり、今後、更なる事故原因の究明が期待されている。また、原子力安全委員会で安全設計審査指針、耐震設計審査指針、防災指針などの見直しの作業が開始されているが、これらの見直しのためには、その前提として事故原因の究明が必要であることはいうまでもない。



第4に、現在行われているストレステストは、簡易な一次評価であり、より詳細な二次評価はいまだなされていない。この点について、班目春樹原子力安全委員会委員長も、国会事故調査委員会のヒアリングにおいて「(一次評価は)再稼働とは関係ない。二次評価まで終わらなければ、安全性の判断はできない。一次評価は安全委が要求している(安全性の)レベルに達していない」と述べている。二次評価の精度についても前記の疑問は残るが、原子力安全委員長がこのように述べていることは無視できない。



第5に、果たして何倍までの余裕が確認できれば再稼働を認めるのか、その基準が示されていないという点も指摘しなければならない。あえてストレステストに何らかの意味を見出すとすれば、それは、全ての原発についての評価を横並びにすることによって、相対的な安全性(危険性)が確認できる、という点にあると思われるが、そのような横並び評価も全くなされていない。



以上のとおり、ストレステストは、福島原発事故を受け、事故の再発防止を図るという目的には全く不十分といわざるを得ない。原発立地自治体からも、「ストレステストだけでは再稼働の条件として不十分である」との意見が多く表明されていることは、当然であるというべきである。



以上のとおり、福島原発事故の原因の解明もいまだできておらず、それを踏まえた安全指針類の改訂もされておらず、当然その改訂指針に基づく安全性の確認もなされていない現状において、ストレステストの一次評価のみで、停止中の原発の運転再開を図ることが許されないことは明らかである。当連合会は、政府に対し大飯原発3号機及び4号機について運転再開を認めないよう強く求める。


2012年(平成24年)2月24日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児