「捜査手法、取調べの高度化を図るための研究会最終報告」についての会長声明

本日、国家公安委員会委員長が主催する「捜査手法、取調べの高度化を図るための研究会最終報告」が発表された。本研究会は、「治安水準を落とすことなく取調べの可視化を実現するための検討を行うことを目的として」、2010年(平成22年)2月に発足し、2年にわたり、23回の会議を重ねてきた。


本研究会においては、警察や捜査に対する国民の信頼を取り戻すことが重要であることが確認され、取調べに過度に依存してきた捜査を改める必要があること、えん罪を生み出さないよう不断の努力が必要であることについては一致をみた。しかしながら、取調べ「全過程」の録画については、警察での取調べの在り方が厳しく問われるえん罪事件が次々と明るみに出たことを踏まえてその制度化が強く望まれていたにもかかわらず、主として捜査関係者等からの懸念の声のため、一致して直ちにこれを推進するとの結論に至らなかった。誠に遺憾である。


ただ、警察における取調べの録画の試行については、上記の意見対立に鑑み「可視化の在り方について検討するための実証的資料を得るためのもの」として位置付け、裁判員裁判対象事件及び知的障がいを有する被疑者につき、自白事件に限らず、否認事件も含め、様々な場面を対象に、より広く実施すべきだとした。すなわち、この提言は、取調べ全過程の録画を含め、広く取調べの録画の試行を行うべき旨提言したものと言えよう。


警察庁には、最終報告を受けて、全国の警察でこれらの試行がすみやかに行われるよう、必要な通達等を直ちに発出することが期待される。また、録画機器等の不足で録画ができないといったことが起きないよう、現時点で、録画機器を全国の警察署に最低各数台以上配備すべく、各都道府県においても必要な予算措置を講じるべきである。


捜査手法の高度化については、捜査機関において客観的な証拠を入手するために、不断に検討する必要があるところであり、最終報告では、いくつかの具体的検討を提言している。しかし、通信傍受の拡大等は、市民のプライバシーを侵害するおそれが極めて強く、その必要性や相当性についての慎重な検討が不可欠であって、かりそめにも取調べの可視化と引き換えになされるようなことがあってはならない。


 顧みれば、本研究会の開始後、法務大臣の下に「検察の在り方検討会議」が発足し、2011年(平成23年)3月には、取調べの可視化の推進を含む提言がなされた。そして、同提言に基づき、検察庁においては、試行として、取調べの録画の頻度や範囲を拡大してきており、まだ十分とはいえないが、検察段階において全過程の録画がなされる例も相当数にのぼっている。また、2011年(平成23年)6月、法制審議会に「新時代の刑事司法制度特別部会」(以下「法制審特別部会」という。)が設置され、取調べの録画の法制化についても検討がなされることとなった。


本研究会においては、取調べ「全過程」の録画をめぐる対立から、その制度化については、法制審特別部会の審議に委ねる外ないこととなった。しかし、法制審特別部会における審議を経て、警察・検察における取調べの可視化(取調べの全過程の録画)は早急に制度化されなければならない。当連合会は、そのために引き続き精力を傾けていく所存である。


2012年(平成24年)2月23日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児