裁判員裁判無罪判決の最高裁再逆転無罪判決に関する会長声明

本年2月13日、最高裁判所第一小法廷は、第1審の裁判員裁判における無罪判決を破棄して有罪とした控訴審判決に対する上告事件において、原判決を破棄し、検察官の控訴を棄却するとの判決を言い渡した。これにより、第1審の無罪判決が確定することとなった。

 

本判決は、「控訴審が第1審判決に事実誤認があるというためには、第1審判決の事実認定が論理則、経験則等に照らして不合理であることを具体的に示すことが必要であるというべきである。このことは、裁判員制度の導入を契機として、第1審において直接主義・口頭主義が徹底された状況においては、より強く妥当する」との判断を示した。そのうえで、「原判決は、間接事実が被告人の違法薬物の認識を推認するに足りず、被告人の弁解が排斥できないとして被告人を無罪とした第1審判決について、論理則、経験則等に照らして不合理な点があることを十分に示したものとは評価することができない」として、原判決を破棄し、無罪の自判をしたものである。


被告人は無罪と推定され、有罪の認定にあたっては合理的な疑いを差し挟む余地のない程度の立証がなされなければならないことは、刑事裁判の基本原則である。裁判員が参加した合議体が直接主義・口頭主義の徹底された審理を経て合理的な疑いを差し挟む余地があると判断し無罪とした被告人について、控訴審の裁判官が、その判断が論理則、経験則に照らして不合理であることを十分に示すことができないにもかかわらず、自らの心証に基づいて有罪とすることは、上記の刑事裁判の基本原則に照らしても、著しく不相当である。本判決は、このような著しく不相当な控訴審の態度を是正したものとして、意義のあるものである。


控訴審は、第1審の有罪判決に対し控訴がなされた場合において、無罪の推定に立ち返り、被告人が犯行を行ったと断定するについて、なお合理的な疑いが残らないかという観点から審査を尽くすことにより、刑事裁判の基本原則を担保する役割を果たすべきである。


当連合会は、刑事裁判の基本原則を尊重し、冤罪を生まない刑事司法を実現するために、今後も全力を尽くす所存である。




2012年(平成24年)2月20日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児