「茶のしずく石鹸」による小麦アレルギー被害への消費者庁等の対応に関する会長声明

厚生労働省は、2010年10月に、「小麦加水分解物を含有する医薬部外品・化粧品による全身性アレルギーの発症について」と題して、小麦加水分解物を含有する化粧品等の製造・販売業者に対し、使用者への注意喚起、運動誘発性のアレルギーに関する副作用報告の徹底等について、通知を発出したと発表した。その際、原因となる製品名、製造者名は示さなかった。当該製品の製造・販売業者である株式会社悠香(以下「悠香」という。)は、同年12月に、原因物質の加水分解コムギ(グルパール19S)を除去した製品を販売することとしたが、既に販売した製品の回収は行わなかった。その後、本年5月になって悠香は自主回収を行い、厚生労働省も製品名及び業者名を明示して当該業者の自主回収を公表した。しかしながら、既に該当製品は、テレビコマーシャル等によって盛んに宣伝が行われ、主に通信販売により全国各地に約4650万個販売されていた。



また、消費者庁は、本年6月に、「小麦加水分解物含有石鹸『茶のしずく石鹸』について」と題して、当該石鹸を使用して運動誘発性アレルギーを発症したとの情報を国民生活センター等から2011年に29件受け、悠香によるとアレルギー症状を発症する事例が67件報告され、悠香が自主回収を行っている旨を公表した。



さらに、同年7月には国民生活センターから、PIO-NETに悠香の「茶のしずく石鹸」に関する危害情報が247件寄せられ、中には呼吸困難や意識不明になるなどのアナフィラキシー反応を起こし、救急搬送されたり入院したりした重篤な事例を紹介した上で、被害拡大防止のため、当該商品を使用しないようにとの注意喚起がなされた。



その後、同年11月14日に開催された厚生労働省の薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策会において、10月17日までに悠香から報告があった件数として、アレルギー発症者が471人、うち66人は救急搬送や入院が必要な重篤な症例であったことなどがマスコミの報道で明らかになった。一方で日本アレルギー学会には1000件を超す症例が報告されているとの報道や、各地の消費生活センターには同月14日現在、健康被害の相談が936件寄せられているとの報道もあることからすると、被害が依然として拡大している状況が窺える。



福嶋浩彦消費者庁長官は本年11月16日の会見で、消費者庁が2010年10月15日に厚生労働省から被害事例の報告を受けていながら、消費者向けの注意喚起が本年6月まで遅れたことについて、「反省しなければならない」「厚生労働省に詳しい情報を求めるべきだった」等と述べたと報道された。



2010年9月に、医薬関係者から「茶のしずく石鹸」によるアレルギー症状発症の情報提供を受け、10月15日にはアナフィラキシー症状を含む21人の発症例の報告を受けていたとの報道もあることからすると、厚生労働省は、消費者安全法に基づき、早期に商品名を含む詳細な事故情報を消費者庁に通知すべきであった。さらに、当該石鹸の使用によるアレルギー発症者数が増加しつつあったのであるから、薬事法に基づき、危害の拡大を防止するため、悠香に対して製品の回収等の危害防止措置を求めるなどする必要があった。



一方消費者庁は、消費者事故等に関する情報を迅速かつ的確に集約・分析し、その結果を取りまとめる役割があることからして、厚生労働省から10月15日に情報が提供された際には、商品名を含む事故情報に関する詳細な情報提供を求めるべきであった。その上で、当時、被害が拡大している状況においては、消費者安全法に基づく消費者被害の発生又は拡大の防止のための措置として、早期に原因となる製品名等の公表等による消費者への注意喚起を行うべきであった。さらに、厚生労働省の対応が不十分な場合には、同省に対し、事業者に製品の回収等を求めるなどの措置を早期かつ徹底して行う必要があった。そうすれば、アレルギー発症の危険性を知らずに「茶のしずく石鹸」の使用を続けたことによる更なる被害の拡大を防止できた可能性は否定できない。



消費者庁は、発足当時から、安全情報の収集・分析・公表の遅れや関係行政機関との連携不足や司令塔機能の不十分さが繰り返し指摘されていたにもかかわらず、発足から2年以上経ってもなお改善がみられないことは極めて遺憾である。今後、このような事態が発生した原因について、消費者安全法等による安全情報の収集の在り方、消費者庁内の人員配置や職員教育の在り方を含め、真摯に検討して至急対応を行うべきである。その際、内閣府の消費者委員会消費者安全専門調査会が本年7月15日に取りまとめた「消費者安全専門調査会報告書」及び消費者委員会の年7月22日付け「消費者安全行政の抜本的強化に向けた対応策についての建議」の指摘を虚心に受け止めた上で対応を検討すべきである。



消費者行政全体を消費者目線で行うべきことが求められている今日、厚生労働省は、製品名及び事業者名を公表しなければ被害の拡大防止につながらない、という当然のことに思いが至らず、消費者庁に通知すれば事足りると考えたとすれば、その姿勢は抜本的に改められるべきである。



なお、「茶のしずく石鹸」による小麦アレルギー被害は今も拡大中であることを踏まえ、更なる情報の収集・分析・公表を行い、消費者の安全確保、被害の拡大防止のための迅速かつ実効的な措置を今後徹底して行うべきは当然である。



2011年(平成23年)11月24日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児