「行政不服申立制度の改革方針に関する論点整理(第3版)」に対する会長声明

今般、政府の行政救済制度検討チームによる「行政不服申立制度の改革方針に関する論点整理(第3版)」(以下「論点整理(第3版)」という。)が公表された。


当連合会は、かねて行政不服審査制度の抜本的改革の必要を訴え、これまで、「行政不服審査制度の抜本的改正を求める意見書」(2006年7月20日)、「行政不服審査制度に関する日弁連改正案(行政活動是正請求法案(仮称))」(2007年5月2日)を公表し、また、同チームのヒアリング及びパブリックコメントにおいて意見を述べてきた。


当連合会は現行法を改善する同チームの改革方針に大筋では賛同するが、旧政権案より後退している部分があり、また、改革を断念された部分につき、異論がある。当連合会の意見の詳細は、上記意見で示したとおり変更はないが、なお3点についてのみ、当連合会の意見を改めて次のとおり申し述べる。これら3点は改革の根幹とも言えるものであり、当連合会は看過できないものである。


1 審理官制度の創設及び行政不服審査会制度について
審理官制度を採用する場合、審理の公正性、中立性を担保する観点から、行政官の単なる順送りのポストに堕することのないよう、非常勤を含む外部登用(弁護士、大学教員、裁判官等)によることを原則とすべきである。外部登用であっても、行政に関する法律問題の専門性において、行政官に劣ることはないと思料する。



また、「審理官の任用条件」の項目では、求められる3つの素養の1つとして「個別の行政分野に対する専門的知識経験」が挙げられているが、これでは行政官OBの任用が原則となりかねず、審理官制度は行政運用の追認制度と堕するおそれがある。総務省は、当連合会に対する説明の際に、これら3つの要素はあくまで並列的な関係に過ぎない旨を繰返し説明したが、そもそも「個別」の行政分野に対する理解は審理官の補佐体制を充実させることにより対処すべき問題である。審理官に求められる素養としては、分野を問わず単に「行政分野に対する専門的知識経験」があれば足りるとすべきである。



そして、少なくとも審理官は省庁ごとに任命するのではなく、人事院と同様、内閣の所轄の下に置かれる独立の組織の下に置くことが妥当と考える。


さらに、旧政権案による改革の中核であった行政不服審査会制度を採用すべきである。審理官が棄却の意見を持っている場合に審査会に諮問することとすれば、簡易迅速な救済の要請に反することはないはずであり、同制度の採否に関する議論は貴チームにおいて十分にされていないと思料する。



2 代理人制度について
弁護士はこれまでも幅広い分野の行政不服審査に積極的に取り組んできた。例えば、国における不服申立てとしては、出入国管理及び難民認定法、労働者災害補償保険法、社会保険関係(健康保険法等)、生活保護法等に関する分野、地方公共団体における不服申立てとしては、情報公開条例、個人情報保護条例、生活保護法、道路交通法、介護保険法等に関する分野における不服申立手続に弁護士は幅広く関与してきている。そして、行政法分野に専門性を持つ弁護士が多数輩出されていること等から、今後ますます活発になることが予測される。



行政不服審査はすでに行政庁との間で紛争として顕在化した案件の処理に他ならず、公権力と対峙しうる弁護士こそがその代理人として相応しいこと、対審型の審査請求への制度改変により当事者性が高まり、審査請求段階で後続の訴訟手続を視野に入れた主張立証をする必要が高まること、法科大学院における行政法の必修化により行政法分野に専門性を持つ弁護士が多数輩出されていること等に鑑みると、紛争解決についての専門性や行政庁からの独立性の不十分な行政書士、司法書士に不服申立ての代理権を付与することは不必要であるのみならず、不適切であり、今後検討する必要もないと考える。


3 不服申立人適格の拡大について
不服申立人適格については、論点整理(第3版)では、行政事件訴訟法の原告適格よりも広く認めるとする案(A案)ではなく、原告適格と同一に扱った上で、行政事件訴訟法9条2項と同様の解釈規定を新設するとともに、不服・苦情を広く受け付けることで救済範囲を拡大する案(B案)を採用する方向で整理するとされたが、当連合会は反対である。行政事件訴訟法9条2項の解釈規定が無用の混乱を生んだのみで、ごくわずかしか原告適格を拡大していないのは周知のことであり、本法でその轍を踏む必要はない。また、苦情処理制度と行政不服審査制度は趣旨を異にする制度であって、苦情を広く受け付けることでは行政不服審査の申立人適格の拡大に代えることはできない。A案については、行政実務や裁判実務への影響も含めて課題があるとするが、これを採用し得ないとする議論の経過も不明であり、他方でB案を採用しなければならないとする理由も明確とは言い難い。改革方針に従って、「不服がある者」を広く解釈し、行政事件訴訟法の原告適格より広い不服申立人適格を認めるべきである。



2011年(平成23年)11月17日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児