生活保護利用者数が史上最多となったことを踏まえ、生活保護制度のより一層の活用を求める会長声明

本日、本年7月時点における生活保護利用者数が205万495人を数え、生活保護制度が始まって以来の史上最多に達したと発表された。

 

我が国においては、生活保護利用者数の増加は、財政負担や不正利用事案の増加とともに報じられ、負のイメージをもって語られることが多いが、利用者数の増加と財政負担を理由に制度が縮小されるようなことがあってはならない。

 

そもそも、生活保護利用者が増加しているのは、長引く不況と非正規雇用の蔓延によりワーキングプアが増えていること、雇用保険のカバー率が低いなど失業時の所得保障制度が脆弱であること、高齢化が進んでいるのに最低生活保障としての年金制度が確立していないことなどに起因している。このように雇用や社会保障制度が生活保障の役割を果たしていない中、生活保護制度は、最後のセーフティネットとして一手に生活困窮者の生活を下支えしているのであり、この制度の利用によって205万495人を超える人々の「いのち」が支えられているという積極的な側面を決して看過してはならない。

 

また、生活保護利用者が増えたとはいえ、これまでに生活保護利用者数が最多数であった1951年の利用者数は204万6646人であるが、当時の人口は8457万人で生活保護の利用率は2.4%であった。これに対し、現在の人口は1億2691万人であるから、利用率は未だ1.6%にとどまる。すなわち、利用者数が現在の1.5倍となって初めて1951年と同レベルということができるのである。

 

また、我が国における利用者数や総人口比での利用率は、先進諸外国に比べると未だに著しく低いレベルにとどまっている。すなわち、ドイツ(人口8177万人)における生活保護に相当する制度の利用率は9.7%で利用者数は793万人(2009年末)、フランス(人口6503万人)における利用率は5.7%で利用者数は372万人(2010年9月)、イギリス(人口6200万人)における利用率は9.3%で利用者数は574万人(2010年8月)に達しており、我が国の3.6倍から6倍の受給率である。このように、我が国における利用率や利用者数が先進諸国に比して著しく低いのは、制度の利用資格のある人のうち2割弱の人しか利用し得ていないという、極めて低い捕捉率に原因がある。

 

生活保護制度が憲法25条の生存権保障を具体化する重要な制度であることに鑑みれば、利用者数の増加と財政負担を理由に制度が縮小されるようなことがあってはならない。生活保護制度が市民の生存権の保障にとって不可欠な制度である以上、必要とする人がもれなく制度を利用できるようにするとともに、利用者数の増加への対策としては、低賃金の不安定雇用をなくし、生活保護制度以外の社会保障制度を拡充することによって対応するべきである。

 

当連合会としては、こうした立場から、貧困の解消に向けた取組をより一層強化する所存である。



2011年(平成23年)11月9日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児