法曹養成制度の抜本的な見直しと司法修習生に対する給費制の存続を求める会長声明

司法は法曹によって担われる。有為な若者が法曹を一生の仕事と考え志望することがなくなれば、司法の健全な発展は大きく傷つけられる。経済的に余裕のある家庭の子弟だけが法律家になるような社会では司法への市民の信頼は地に墜ちてしまうであろう。



司法改革は法科大学院を中核とする新たな法曹養成制度を生み出し、多様な法曹の誕生が期待された。しかし、法科大学院適性試験の志願者数は制度発足時と比較して5分の1以下に減少し、社会人入学者の割合も大きく減少している。このような危機的な状況に陥っている理由としては、司法試験合格率の低さ、法曹養成に要する経済的・時間的なコスト、司法修習終了後の就職難や企業・行政等への業務拡大が期待されたように進んでいないこと等が考えられる。



民主党法務部門会議は数回に及ぶ部門会議とコアメンバー会議を開催し、10月24日のコア会議と25日の部門会議において取りまとめを行い政策調査会に報告した。



この報告によれば、まず司法制度改革の中で構築された法科大学院を中心とする新たな法曹養成制度の現状には極めて問題点が多いので、全般の抜本的な検証と検討を行い、早期の見直しに着手することは共通の認識とされたという。



そして、政府内において法曹養成制度全体の見直しを直ちに開始して遅くとも2年以内に結論を得て必要な措置を講ずるものとされたが、給費制か貸与制についてはこの法曹養成制度全体の見直しの際に最終的な結論を出すこととされたという。



しかし、今後2年間の暫定的な制度について、貸与制への移行を図るか、給費制を存続させるかについては、意見の一致を見ることができなかったとして両論併記の形で政策調査会にその解決を委ねた。しかし、25日の部門会議においては、給費制を維持する意見が大勢であったと聞いている。



1 司法修習生に対する給費制の存続を求める



日弁連は10月27日市民とともに給費制の維持を求める国会請願パレードを企画し、約1500人の市民と弁護士の参加を得た。集会に参加した消費者団体、環境団体、クレジット・サラ金被害者団体、労働団体の代表、法曹を志望する若者からは、給費の受益者は司法による救済を求める国民であり、人権保障に熱意を持った法律家を育てるために給費制の維持を求める意見が相次いだ。



政府内には本年8月の法曹の養成に関するフォーラムの取りまとめを根拠として貸与制への移行を既定方針とする考え方があるとされる。しかし、貸与制の導入が決定された2004年当時と比較しても、リーマンショックによる経済不況の深刻化と弁護士数の急増により、新人弁護士の就業と経済状況は著しく悪化しており、司法試験合格者の中からも奨学金の返済に加え、貸与金の返済への不安から司法修習を断念するという憂慮すべき事態が現実のものとなっている。このような実情に適切に対応することは政治の任務である。



日弁連は修習資金について、現在の厳しい財政状況を踏まえ政府負担を減らしていく努力が求められていることを認識し、本年7月法曹の養成に関するフォーラムに対して、賞与分のカット、基本給の減額、住居移転などに対する実費補助などを内容とする「新たな給費制」を提案しており、その場合、必要予算は63億円まで圧縮できるとしている。



また、法科大学院に対する政府の財政支援額も2005年には99億円を要していたが、入学者減少により、2010年には71億円、2011年にはさらに相当額が減少する見通しである。



弁護士を含む司法制度は憲法に基礎を置く社会インフラであり、今回の東日本大震災における被災者への法的支援や原発損害賠償ADRでの活動などを見ても、弁護士の果たすべき社会的役割は極めて重要であることが明らかであるから、その養成費用は本来国が負担することを原則とするべきである。



修習生への経済的な支援の規模は、法科大学院の定員や司法試験合格者数と密接に関連している。今後、緊急に見直された後の法曹養成制度全体がどのような姿となるか,その結果法曹養成全体に必要な国家予算がどの程度となるのかなどを見極めながら、制度全体に対する国の支援のあり方、その過程における裁判所・法務省・文部科学省・弁護士会の果たすべき役割分担について議論を深めていくべきである。



そして、法曹養成制度の深刻な現状に鑑みれば、有為な人材に法曹志望を断念させることにつながる大きな負のメッセージとなっている貸与制への移行は、見送るべきである。



2 法曹養成制度の抜本的改革の加速を求める



日弁連は、先の法務部門会議の取りまとめに基づいて「法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律」の附則2条に定められた「検討」を2013年を待たずに直ちに開始するよう法改正を行い、修習資金の取扱を含む法曹養成制度全体について、制度的な裏付けを持った見直し作業を直ちに開始し、地域適正配置に配慮しつつ法科大学院の統廃合と大幅な定数削減、受験回数制限の緩和、修習開始時における集合的な修習などを柱とする根本的な改革を進めるべきであると考える。



3 政府提案の閣法について与野党の協議による修正を求める



政府が法曹の養成に関するフォーラムの取りまとめに基づいて提案予定の裁判所法改正案(経済的な困難者に対する一年ごとの返済猶予を定める新貸与制を内容とする)については、日弁連の基本的姿勢とは相反するものであるが、この政府提案について与野党の協議により、法曹養成制度全体の早期見直しと貸与制の実施延期の2点が明記され、当面給費制が継続されるようその修正が図られるよう強く求めるものである。




2011年(平成23年)10月28日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児