警察庁発表の「警察における取調べの実情について」に関する会長声明

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警察庁は、2011年10月20日、「警察における取調べの実情について」と題して、2011年2月における一般事件と2010年中のいわゆる捜査本部事件の取調べについて、取調べ日数、回数、場所、時間、自白の時期、契機、自白率等に関する調査結果を発表した。


同調査では、捜査本部事件の取調べをした捜査員の70%近くが被疑者との信頼関係によって自白が得られたとしている、という。しかしながら、この調査における「自白の契機」は、取調官から見た主観的意見・評価をまとめたものに過ぎない。実際、多くのえん罪事件において、取調官が「被疑者が取調官との信頼関係に基づき、反省悔悟して自白をした」と主張していたにもかかわらず、後になって、これとは全く異なった取調べの実態であったことが明らかになっている。このことを看過すべきではない。


また、同調査によると、いわゆる捜査本部事件では、取調べ時間は平均65時間31分であり、取調べ時間の最長のものは114時間41分にも及ぶとのことだが、このような膨大な時間を取調べに費やすことの是非については、何らの分析もしていない。しかし、被疑者や参考人になった人々から、長時間の取調べや多数回の取調べで、納得しないままに取調官の言い分を押し付けられて調書が作成されたといった訴えは、決して少なくない。このような調査をするのであれば、なぜ、このような長時間取り調べる必要があったのか、それが自白の獲得とどのような関係があったのかについての分析がなされる必要がある。


今は、自白や不利益な事実を承認する調書が作られるに至る過程で、実際にどのようなやり取りがあったのかについて、全過程の録画の試行をして、具体的な検証をすべき段階である。また、録画の試行結果についても、供述心理学等の専門家や弁護士を含む複数の第三者を交えて、客観的な検証を行い、録画による効果や影響のほか、取調べの方法の検討がなされるべきである。


既に検察においては、いわゆる特捜事件及び知的障がいによりコミュニケーション能力に問題がある被疑者等について、全過程を含む取調べの録画を行う取組がなされ、裁判員裁判対象事件についても録画の範囲を拡大する方向となっている。


当連合会は少なくとも、警察においても、知的障がいによりコミュニケーション能力に問題がある被疑者等については直ちに取調べの全過程の録画の試行を行うことを求める。そして、順次、全過程録画の試行の対象範囲を拡大していくことを強く求める。




2011年(平成23年)10月24日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児