原子力損害賠償紛争解決センターによる和解の仲介申立て受付開始に際しての会長声明

本年9月1日から、原子力損害賠償紛争解決センター(以下「センター」という。)が和解の仲介申立ての受付を開始する。



既に政府から発表されているとおり、センターは原子力損害賠償紛争審査会の中に設置された裁判外紛争解決手続機関である。今回の東京電力福島第一、第二原子力発電所事故(以下「本件事故」という。)においては、その被災者は数十万人規模に上るともいわれており、その膨大な数の被災者が被った経済的、精神的損害等に対する賠償の内、当事者間の交渉で解決しないものを、すべて訴訟等裁判所における手続で解決することは、解決までに長期間を要する可能性が高く、経済的にもまた心理的にも窮地に立たされている被災者の迅速な救済という点において問題である。また、現在の裁判所の人的物的態勢からみてもこれだけの数の訴訟等の手続を処理するのは困難を極めると思われる点からも、このような裁判外紛争解決機関を設置して公正かつ迅速な解決の仕組みを用意することは当事者双方にとって重要な意義を有する。



当連合会では、かねてから、多数の被害者の公正かつ迅速な救済のために、原子力損害賠償に係る紛争解決に特化した独立の中立的な裁判外紛争解決機関を立法により設立すべきことを訴えてきた。センターが文部科学省の管轄する原子力損害賠償紛争審査会の中に設置されていることについては、独立した紛争解決機関としては、必ずしも理想的なものではないともいえる。他方、センターは、文部科学省のみならず裁判所、法務省及び弁護士会が協力して設立された準司法的な性格の紛争解決機関であり、その早期の設置は、現状において考え得る妥当な当面の措置であると考えられる。



当連合会は、各弁護士会からの協力を得て、実際に事件の仲介を行う和解仲介委員及びセンターの事務局として和解仲介委員を補佐する調査官等として多数の弁護士を推薦しており、今後、弁護士をはじめとした法曹がセンターの中核を担っていくこととなる。



和解仲介委員及び調査官等は、今後、被災者の被った損害について、適正な手続の下、中立公正な立場から、迅速な紛争解決のために尽力をしていくこととなる。センターが今後被災者や国民一般から信頼を得られるものとなるかどうかは、これら和解仲介委員や調査官等の活動にかかっているのであり、その任務と責任は重い。



当連合会は、先の見えない苦しみの中に置かれている被災者の方々が、憲法上保障された生活、権利及び人間の尊厳を回復するための足掛かりとなるよう、センターが適正に運営されることを見守るとともに、全力でこれをバックアップする所存である。また、全国の弁護士がセンターへの申立てをはじめとする原子力損害賠償の相談に応ずるよう、必要に応じ適切な態勢を整える。被災者の方々におかれては、原子力損害賠償紛争の解決の重要な選択肢として、センターへの申立てを積極的に検討していただくよう、また弁護士に相談していただくよう、お願いしたい。



最後に、当連合会は、前述のとおり、センターを独立した裁判外紛争解決機関として位置付けるとともに、①センターにおける紛争解決の実効性を確保するため、和解の仲介を行うほか、センターが相当と認めるときは、紛争についての裁定を行うことができるものとすることを含めた措置を講ずること、②センターの紛争解決手続における被害者の請求は、時効中断効を有するものとすること、③裁判所とセンターの手続の間に連携措置を講ずることなどの立法措置が採られるべきであると考えており、その早期の実現を、関係政府機関及び国会に対し、改めて要望するものである。




2011年(平成23年)8月29日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児