児童ポルノ処罰法の与野党の各改正法案に反対する会長声明

現在開会中の国会に、「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」(以下「児童ポルノ処罰法」という。)の改正案が与野党それぞれから提出されて審議が始まっている。

 

日本弁護士連合会は、2010年3月18日付け「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」の見直し(児童ポルノの単純所持の犯罪化)に関する意見書で、現行法の児童ポルノの定義が曖昧かつ広範なので、定義を限定かつ明確化することを求めるとともに、子どもの人権保障の観点から、児童ポルノの単純所持を法律上明確に禁止することを求めたが、比較的違法性が低い単純所持を犯罪として処罰することは、捜査権の濫用が懸念され、刑罰の謙抑性の観点からしても行き過ぎであるとして反対した。

 

現行法は、児童ポルノの定義に関し、同法2条3項2号及び3号において「性欲を興奮させ又は刺激するもの」という主観的要件を含んでおり、児童ポルノの構成要件該当性を客観的に判断できない。特に、同条同項3号は「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」と規定しており、極めて広範かつ曖昧・不明確な定義となっている。このため、自分の子どもの乳幼児時代の裸の写真でも、見る人によっては「性欲を興奮させ又は刺激するもの」であるとして、児童ポルノに該当すると判断されるおそれがある。

 

18歳未満のアイドル女優のヌード写真集が児童ポルノに該当するか否かをめぐって、かつて国会でも質疑がされ、国民的にも関心を呼んだことが、まさに主観的要件の曖昧さを表しているといえよう。

 

現在提案されている自民党・公明党の改正案は、現行法の児童ポルノの定義の曖昧性・不明確さをそのままに、さらに児童ポルノの単純所持をも犯罪化しようとするものであり、罪刑法定主義の観点から極めて問題が大きい。

一方、民主党案は、現行法の児童ポルノの定義の改正を提案している。客観的要件として、「性的な部位が露出され又は強調されているもの」(2条3項3号)と対象を限定するもので、意図は理解できる。しかし、「児童の性的な部位が…強調されている…」(同条)とは具体的にはどういう場合を示すのか、例えば見る者によって認識が異なるので、曖昧さが残るものであって削除されるべきである。「性欲を興奮させ又は刺激するもの」という主観的要件の曖昧性の問題も残る。

 

児童ポルノの定義は、いかに厳密を期しても曖昧さが残るため、日本弁護士連合会は、2010年11月16日付け意見書において、「解釈上の指針(ガイドライン)を作成し、捜査機関の恣意による摘発がなされないようにすべきである」と提言した。児童ポルノ処罰法の改正に当たっては、有識者会議を設置し、市民に見える形でガイドラインを作成することを、政府の義務として明記すべきである。

 

さらに、民主党案は「児童ポルノを反復して『有償』取得する行為」を新たに処罰の対象にしようとしている。一見、単純所持行為を絞り込むもののように見えるが、捜査の場面を考えると、児童ポルノの画像をパソコン上に複数所持している場合に、反復して有償取得した行為であることが推認されるとして嫌疑をかけられる危険もあり、捜査権の濫用の懸念は残るのであって、日本弁護士連合会としては、かかる反復有償取得の犯罪化にも、反対するものである。

 

                                                             2011年(平成23年)8月19日
                                                                        日本弁護士連合会
                                                                      会長 宇都宮 健 児