法務省「被疑者取調べの録音・録画に関する法務省勉強会取りまとめ」に関する会長声明

法務省は、本日、「被疑者取調べの録音・録画に関する法務省勉強会取りまとめ」(以下「取りまとめ」という。)を公表した。この勉強会は、2009年10月に政務三役を中心に設けられたものであって、2010年6月には、「被疑者取調べの録音・録画の在り方について~これまでの検討状況と今後の取組方針~」(以下「中間取りまとめ」という。)を公表しており、取りまとめは、今後、法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会(以下「法制審特別部会」という。)において報告されることになる。

 

日本弁護士連合会は、中間取りまとめに対する2010年6月18日付け会長声明及び同年7月15日付け意見書において、①中間とりまとめは、取調べの可視化(取調べの全過程の録画)の実現を大きく後退させるもので、その方針を根本的に改めるべきであること、②法務省は、密室取調べが度重なるえん罪を生んできたことを真摯に受け止め、速やかに取調べの可視化の実現のための立法作業を開始すべきであること、③裁判員裁判対象事件については、立法を待つまでもなく取調べの可視化の試行を直ちに実施すべきであること、を指摘した。

 

検討開始から2年近くもかけた取りまとめは、これらの指摘と中間取りまとめ後に明らかになった厚生労働省元局長事件の無罪判決と同事件の主任検事による証拠物のデータ改ざん事件とを踏まえ、取調べの可視化(取調べの全過程の録画)の法制度の枠組案を示すことが期待されていた。

 

しかし、取りまとめは、取調べの可視化の趣旨・目的をえん罪防止と指摘しながら、いわゆる任意取調べの段階を早々と録画の対象外とした上、「身体拘束後の全過程を対象とすべきか」について、「現在実施されている取調べ過程の一部の録音・録画であっても一定の効果が認められることや全過程の録音・録画記録を視聴する負担は無視できないものとなり得ることに加え、録音・録画によって取調べの機能に支障が生じるおそれが大きいことは否定できないことなどを考慮」した結果として、「録音・録画の必要性と現実性との間でバランスのとれた制度を検討することが必要である」などとしている。この点、到底容認できるものではない。取調べの一部の録音・録画は、裁判官や裁判員の判断を誤らせる危険が極めて大きい。このことを看過して、録画制度の構築などあり得ないというべきである。また、視聴をする負担を過大視することは誤りであり、また、それはおよそえん罪の防止との間でバランスを取るべき事柄ではない。さらに、取調べの機能に支障が生じることは、取りまとめ自体が認めているように、いまだ実証されているとはいえず、検察官に対するアンケート結果をもって、これに代えることはできない。

 

「法務省としては、可視化の趣旨・目的の重要性に鑑み、法制審議会からできる限り速やかに答申を受け、制度としての可視化を実現していく所存である」との決意表明をしているが、これは全過程の録画を原則とするものでなければならない。

 

また、取りまとめが、「取調べの録音・録画の実現に向けた取組を一層推進し、その具体的な制度設計について、法制審議会において、十分な実証的資料に基づき、充実した調査審議が行われることに資するため」、取調べの全過程の録音・録画を含む現在の可視化試行に加え、「現在の実施指針上録音・録画の対象となる事件については、原則として全事件において録音・録画を行うこと」とし、「例えば、否認している被疑者に弁解を尽くさせる場面を録音・録画するなど否認事件についても録音・録画の対象とするほか、身柄拘束の初期段階の取調べ、主要な供述調書の作成に係る取調べ、いまだ供述調書を作成していない事項に係る取調べ等を含め、様々な録音・録画を行うこと」としていることは評価したい。

 

日本弁護士連合会は、取調べの全過程の録画の試行が多数、積極的に行われ、供述心理学等の専門家や弁護士を含む複数の第三者を交えて客観的に検証されることを期待し、速やかに、その結果に基づき、法制審特別部会で取調べの可視化(取調べの全過程の録画)の制度化が図られることを切望する。




2011年(平成23年)8月8日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児