さらなる海洋汚染を未然に防止するため、福島第一原子力発電所に地下遮蔽壁の速やかな設置等を求める会長声明

本年3月11日の福島第一原子力発電所事故以降、大量の放射性物質が大気・海洋に放出された。とりわけ、4月4日には、東京電力は、より高濃度の汚染水の流出を防ぐためとはいえ、大量の汚染水を海洋に意図的に放出してしまい、国際社会から強く非難されたところである。このような非難は、東京電力に対する以上に、我が国の政府の対応が不十分であったことに対するものである。


東京電力は、これ以上の汚染拡大を防止する観点から、深さ約30mの難透水層に達する地下遮蔽壁(発電所の1-4号機原子炉建屋及びタービン建屋の周りに壁を構築し遮水するもの。以下「地下バウンダリ」という。)の構築を計画しているとされる。福島第一原子力発電所においては、炉心が溶融し、圧力容器から溶融した核燃料が漏れ出しており(「メルトスルー」)、今後格納容器も貫通して、核燃料による地下水などへの汚染が進む可能性もあること、現状でも大量の汚染水が地下に浸透する可能性が高いことからすれば、地下バウンダリの構築は、「高濃度の滞留水が(ママ)これ以上海洋に流出させないために、『後追いとならない備え』とすること」(東京電力資料)を目的とするものであり、これ以上の地下水と海洋汚染を防止するために、極めて重要かつ緊急の対策である。


ところが、報道によると、東京電力は、この計画が多額の費用を要することから、株主総会前に発表すると自社の株価に悪影響が生ずることを懸念し、当初の計画発表予定をキャンセルして、6月17日に中長期的対策として検討することだけを公表した。


もとより、地下バウンダリの速やかな構築は、さらなる汚染の拡大を防止する重要な意味があるし、ひとたび地下水が高レベルの放射性物質によって汚染された場合には、このような遮蔽壁の構築工事そのものが作業員の安全性の観点から施工不可能となりかねない。このような事態を未然に防ぐために、東京電力はもちろん、むしろ政府が主導して速やかに計画を立案し工事を始めることが、「後追いとならない備え」として求められている。しかるに、こうした重大な環境汚染対策の採否が東京電力にのみ委ねられ、同社の株価維持の観点から遅延しているとの報道もなされているが、事実とすれば由々しい事態である。


よって、当連合会は、政府及び東京電力に対し、工事費用負担の問題にとらわれることなく、手遅れとならないうちに地下水と海洋汚染のこれ以上の拡大を防止するため、地下バウンダリの設置を含めた抜本的対策を速やかに計画・施工することを求める。  




2011年(平成23年)6月23日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児