原子力損害賠償紛争審査会における第二次指針の策定に関する会長声明

1 原子力損害賠償紛争審査会(以下「審査会」という。)は、東京電力福島第一原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関して、本年4月28日に発出した第一次指針を踏まえて、さらに5月31日に第二次指針を示した。当連合会は、第一次指針の策定に際して、4月28日付け「原子力損害賠償紛争審査会における第一次指針の策定に関する会長声明」を発出し、東京電力の免責を認めず、迅速かつ公正な被害救済のための基準であるとして、基本的な評価を述べたところである。


2 第二次指針において示された、避難等の指示、出荷制限指示等及び作付制限指示等に係る損害についての基本的な考え方は、現時点における被害の実情に見合った適正なものとして、評価できる。また、いわゆる風評被害についても、一般的基準が示され、かつ、農林漁業及び観光業については基準が示されたことも、評価できるものである。さらに、審査会では、第一次指針、第二次指針に含まれないものについても、今後検討していくとしており、早急な指針の取りまとめが期待される。


なお、東京電力及び国は、被害者の迅速な救済のため、事故が収束せず、被害総額が確定しない段階でも、第一次指針及び第二次指針で示された基準に基づき、損害賠償金の暫定的な支払いを大至急行うべきである。


3 当連合会は、審査会の示す指針が紛争解決において極めて重要であることに鑑み、さらに、以下の各点について、要望するものである。


  (1) 自主的に避難している者の損害について

放射能の危険から避難している者の損害については、「政府による避難等の指示に係る損害」のみが対象とされており、これ以外に自主的に避難している者についての損害は、第一次指針及び第二次指針では全く考慮されていない。


ところで、第二次指針の「風評被害」については、「必ずしも科学的に明確でない   放射性物質による汚染の危険を回避するための市場の拒絶反応」(第二次指針1  5頁)によって生じた被害とされている。

この趣旨からすれば、「政府による避難等の指示」がない場合においても、被ばく
の危険を回避するために避難することが合理的であると認められる場合には、その損害(の全部又は一部)は、賠償の対象とされるべきである。


 (2) 除染費用について

様々な事情により避難が困難である場合にも、「必ずしも科学的に明確でない放射性物質による汚染の危険を回避するため」には、なるべく被ばくしないようにすることが重要であり、そのためには除染活動が極めて重要である。


すでに、学校や公園などにおいては、汚染土の除去や、放射性物質 を吸着させることを目的とする作物の作付などが試みられている。今後は、個人宅の庭などの除染も必要になることが予想される。また、建物内での活動を余儀なくされるため、その対応としての冷房設備等の設置や、放射性物質を含むゴミ処分や、下水における放射性汚泥の処理などの困難な課題もある。

こうした除染活動等は、現時点では試行錯誤されている段階であるが、本格的な除染措置等は当然費用を要するものであるところ、第一次指針及び第二次指針には、全く考慮がされておらず、こうした点についても配慮を要する。


  (3) 被害の多様性について

審査会の第6回の審議においては、関係官庁・地方公共団体や業界団体から、損害の実情についてのヒアリングが行われている。さらに、審査会では、17の分野について、複数の専門委員を任命して、被害の全体像について把握したいとしている。


公平・適正な指針を策定するためには、被害の実情についての正確な把握が何よりも重要であり、これらのヒアリング・専門委員による調査が適切に進められるべきである。


しかし、今回の福島第一原子力発電所事故による被害は、これまでに経験したことのない甚大なものであり、被害は多様である。しかも、事故が収束しておらず、被害は継続している。とりわけ、被害の類型化が困難な小規模事業者においては、その被害が取り上げられないまま、経済的に過酷な状況に置かれている例が無数にある。


したがって、今後の指針を策定するに当たっては、このように類型化が困難で被害が継続していることを十分考慮に入れ、賠償されるべき損害が放置されることのないよう、柔軟なものにすべきである。

また、当連合会は、被災住民に対する法律相談の事例の集積により、上記のような今回の原子力災害の複雑な実情を正確に把握している弁護士を紹介することが可能であり、今後、審査会におけるヒアリングや専門委員による調査が行われるに当たっては、それに全面的に協力する用意がある。




2011年(平成23年)6月14日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児