いわゆる地域主権改革につき、拙速を避け慎重かつ徹底した審議を求める緊急会長声明

本年4月22日、「地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律案」(いわゆる地域主権改革推進一括法案・第1次法案)が関連法案とともに可決され、参議院に送付された。

 

当連合会は、前政権下での地方分権改革推進委員会の第3次勧告から上記法案、昨年6月22日に閣議決定された地域主権戦略大綱及び今国会に提出された同名の法律案(第2次法案)に連なるいわゆる地域主権改革につき、これまで5つの意見書を採択し、地域主権改革が国民の権利義務に重大な影響を及ぼす危険があることを指摘して、その具体的内容を取り上げてそれに反対し、又は全体として慎重な審議を行うよう求めた。

 

これらの意見書で、当連合会は、地方分権、地域主権改革全般について、または地方分権一般について、その時点で一定の意見を述べるものではないとしつつ、個別の具体的課題を取り上げ、少なくともこれらについて、各地方自治体の自主的規律・基準設定に委ねることが人権保障の観点から看過できないことを具体的に指摘した。例えば、①国民の権利義務に直接関係する事務を行う法務局の権限を地方自治体に委譲することは、法の解釈・運用を全国一律に行う必要上容認できないこと、②現在でも不十分な現行の児童福祉施設最低基準を各地方自治体の自主的規律・基準設定に委ねることは、子どもの成長発達権保障という観点から重大な問題が生ずること、③国の出先機関たる都道府県労働局にかかる労働行政を地方公共団体に移管することは、憲法上の労働者の最低労働条件の保障と雇用の確保を国の責任で全国統一的に行う制度を変更することになりかねないこと、④第3次勧告中の「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」及び「男女共同参画社会基本法」の見直しは、男女平等・男女共同参画の実現に看過できない重大な影響が及ぶこと、⑤保育所の居室床面積に関する重大な例外扱い等が、安全・安心に成長発達する権利を侵害するものであること、予定される教育関連法制の改正は、極めて広範かつ多岐の事項に及び、これを包括的に地方に委ねれば、一定の教育水準の下で安全に等しく「学ぶ権利」が、地域を越えると保障されないという事態が懸念されることなどである。

 

当連合会は、住民の自治に基づく政策が実行されることの意義は評価するものであるが、上記のとおり、今回のいわゆる地域主権改革には、国民生活に重大な影響を及ぼす内容が含まれている。

 

しかるに、上記意見書にもかかわらず、その後、国民生活への具体的影響を精査した形跡は全く見られず、市民・国民に対する説明周知も極めて不十分であり、直接の影響を被る当事者や関連団体に対しても意見表明や意見集約の機会が設けられないまま、東日本大震災後の混乱が続く最中、第1次法案が若干の修正を加えられて衆議院で可決され、第2次法案までも提出された。これは、国民の権利擁護の観点から極めて重大な問題であると言わざるを得ず、到底、看過することができない。

 

今回の東日本大震災では、被害の救済と復興における広域対応の必要性が改めて議論されており、国と地方の役割についての国民的議論の必要性が高まっていることにも十分留意する必要がある。

 

よって、改めて、拙速を避け、地域主権改革が国民生活に及ぼす具体的影響を精査して、影響を受ける当事者の意見を十分に聴取した上で、国民的議論を踏まえた慎重かつ徹底した審議がなされるよう、強く求める。

 

なお、法案の審議にあたっては、制度の国民生活への影響を精査し、制度の見直しが可能となるよう、検証と見直しのための規定を設けることを検討すべきである。


2011年(平成23年)4月28日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児