東日本大震災後の日本の温暖化対策に関する会長声明

わが国は、京都議定書において、2008年から2012年までの温室効果ガス排出の平均を1990年レベルから6%削減する義務を負い、さらに2012年以後についても、鳩山前首相は2009年9月の国連特別総会において、1990年比で2020年までに25%削減することを目指すことを宣言した。これは、わが国が、国際合意の構築に貢献し、かつ先進国の一員として応分の責任を果たしていく決意を内外に明らかにしたものであった。

 

しかるところ、本年3月11日に発生した東日本大震災によって福島第一原子力発電所は、国際原子力事象評価尺度(INES)の事故レベル7という深刻な状況に陥り、他の原子力発電所の地震・津波対策も不十分であることが明らかとなっている。これまでの原子力発電に依存したエネルギー政策を早急に見直すことは不可避である。そうしたなかで、京都議定書の6%削減義務を達成できない場合の措置の適用除外や、25%削減目標の見直しを求める声が政府関係者からもあがっていることは憂慮すべきである。

 

しかし、わが国の2009年度の温室効果ガス排出量は、1990年比4.1%減(速報値)であって、森林吸収分を加えると2008年から2012年までの平均として6%削減は十分に達成可能である。また、大震災を契機として、産業界及び国民の省エネルギー意識や省エネルギーへの投資が進んでいる。必要な政策措置を講じることで2020年25%削減目標は余裕をもって達成可能である。

 

放射能も地球温暖化も、将来世代の生存にかかる問題である。私たちは、放射能の危険も温暖化の脅威もない持続可能な社会を目指さなければならない。震災からの復興においても、原子力に依存せず、エネルギー消費の少ない低炭素型の経済社会への変革と再生可能エネルギーの飛躍的拡大を基軸とした持続可能な日本の創造が図られなければならない。

 

大震災を理由に6%削減目標を達成できないとして京都議定書の適用除外を求めること、及び25%削減目標の表明を撤回することは、わが国の持続可能な社会構築を困難にするだけでなく、国際社会からの信頼を大きく損なうことになる。政府は、温室効果ガスの排出削減を確実に実施し、持続可能な社会の構築に向けて着実に踏み出すために、25%削減目標と主要3施策を含む「地球温暖化対策基本法」を早期に制定すべきである。


2011年(平成23年)4月22日

日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児