「東京都青少年の健全な育成に関する条例の一部を改正する条例案」に関する会長声明

本年11月22日、東京都知事は、インターネット規制と児童ポルノ規制を柱とする「東京都青少年の健全な育成に関する条例の一部を改正する条例案」(以下「新条例案」という。)を発表した。新条例案は、去る3月議会に提出された条例案が、本年5月11日付けの当連合会会長声明を含め多数の反対を受けて可決に至らなかったという経緯を踏まえて、一部修正されたものである。しかし、新条例案では、依然として、当連合会がこれまで指摘してきた問題点が十分には解消されていないため、当連合会は、新条例案に対しても改めて反対する。


すなわち、新条例案は、「刑罰法規に触れる性交若しくは性交類似行為……を、不当に賛美し又は誇張する」漫画やアニメーション等を規制の対象とするが(7条)、「不当に賛美」や「誇張する」などの定義は曖昧不明確であって、結局は正当な表現の自由を侵害するおそれがある。


また、新条例案は、法律で定める児童ポルノに該当しない図書類(13歳未満の者の……扇情的な姿態を……みだりに性欲の対象として描写した図書類)をも規制の対象とした上(18条の6の3)、その販売等に関し、都知事が保護者等に対して指導・助言を行うこと、さらには保護者等に対して説明又は資料の提出を求めることができる旨を規定している。しかしながら、「扇情的な姿態」などという当該図書類の定義は曖昧不明確であり、加えて、知事の指導・監督等は家庭教育への介入と言わざるを得ない。このような図書類を保護者が販売等を行うことは児童虐待であり、現在でも児童相談所が指導・助言できるのであるから、さらに知事の指導・助言等を条例で定める必要性はない。


インターネット規制に関しても、保護者に対して、フィルタリングサービスを利用しないときは、保護者が青少年を適切に監督することその他の正当な理由等を記載した書面の提出義務を課しているが(18条の7の2)、これは事実上、フィルタリングサービスの利用を強制するものであり、保護者の選択権を奪い、家庭教育への介入として不当であるのみならず、「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律(青少年インターネット環境整備法)」を逸脱し、保護者に過度な義務を課すものであって、条例制定権の限界を超える疑いもある。


当連合会が繰り返し述べているように、子どもが性的搾取・性暴力の被害者となったり有害情報に晒されたりする事態は放置できないが、さりとて、子どもを守るためと称して、家庭教育への公権力の介入や表現の自由に対する公権力の規制を強めるという方向を目指すことは、決して正しいあり方とはいえない。また、青少年と保護者との対話などを通じて醸成が期待される青少年の情報リテラシーの育成を阻害する方策は採るべきではない。


われわれの社会が真に子どもを守ろうとするならば、子どもが人権・権利の享有主体であることを確認した上で、子どもの人権侵害のおそれのある行為・社会事象をどう防止し、子どもの人権をどうよりよく保障するかという視点を持つことが必要である。そのためには、現在提案されているような新条例案の成立を目指すのではなく、現行の青少年健全育成条例そのものを見直し、真正面から子どもの権利保障を謳う「子どもの権利条例」を制定し、子どもの人権保障を全うするという視点で、インターネット利用の仕方や児童ポルノコミック等のあり方を考えるべきであるということを、当連合会としては改めて強調するものである。


2010年(平成22年)12月3日


日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児