生活保護における老齢加算廃止に関する東京高裁判決に関する会長談話

東京高等裁判所は、本年5月27日、都内在住の70歳以上の生活保護利用者が、その居住する自治体に対し、生活保護の老齢加算廃止を内容とする保護変更決定処分の取消を求めた訴訟において、原告側の控訴を棄却し、第一審どおり、原告らの請求を棄却する判決を言い渡した。


本判決は、生活保護基準の設定のみならず、その受給対象者に対する不利益変更についてまで、朝日訴訟最高裁判決を無批判に踏襲し、厚生労働大臣の広範な裁量を認め、老齢加算の廃止が憲法25条、生活保護法に違反しないとしたのである。


老齢加算は、70歳以上の生活保護利用者に対し、加齢に伴う特有の生活需要を満たすために1960年から実施されたものであるが、厚生労働大臣は、2004年度から段階的な廃止を決定し、2006年度には全廃されるに至った。その結果、高齢の被保護世帯は、約20%もの生活扶助費を削減されることとなったのである。


しかし、老齢加算は、中央社会福祉審議会生活保護専門分科会における検証の結果、2回にわたりその必要性が肯定されているものであるし、創設以来40年にわたり、高齢の被保護世帯の健康で文化的な最低限度の生活の維持のために不可欠なものとなっていたものである。


当連合会は、2006年の第49回人権擁護大会において、貧困の連鎖を断ち切り、すべての人の尊厳に値する生存を実現するために生活保護の切り下げを止めることを求め、また、2008年11月には、法改正に当たり民主的コントロールを受けないまま削減・廃止されてきた老齢加算及び母子加算を削減・廃止前の内容で復活させるべきであることを提言した。


当連合会は、東京高裁で、このような不当な判断が下されたことを強く憂慮する。厚生労働大臣においては、本判決に拘泥することなく、いまだ置き去りになっている高齢者の貧困対策の見地から、昨年12月に復活された母子加算と同様に老齢加算を速やかに復活させることを求める。


2010年(平成22年)6月3日


日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児