「東京都青少年の健全な育成に関する条例」の一部改正に関する会長声明

本年2月、東京都知事は、インターネット規制と児童ポルノ規制を柱とする「東京都青少年の健全な育成に関する条例の一部を改正する条例」(以下「条例案」という。)を東京都議会に上程し、来る6月の都議会において継続審議される予定であるが、当連合会は、本条例案に反対する。


もとより、インターネットを利用した情報の受発信を通じて、子どもがいじめ等の人権侵害行為の加害者になったり、逆に被害者になったりしている実態や、「児童ポルノ」画像を通じて子どもの尊厳が傷つけられている実態は、いずれも由々しき問題であり、決して放置してよいものではない。


しかし、それらの違法状態を解消するための対策として、家庭教育への公権力の介入や表現の自由に対する公権力の規制を強めるという方向は、決して正しいあり方とはいえない。子どもたちがインターネットを正しく利用できるように教育することや、性に関する問題を教育することは、本来、子どもの養育・発達に第一義的責任を有する保護者の役割であり、それぞれの教育のあり方に対して、みだりに公権力が介入すべきではない。ところが、条例案では、「児童ポルノ」の閲覧やインターネットの利用に関して、都知事が「保護者に対し説明若しくは資料の提出を求め、又は必要な調査をすることができる。」(18条の6の5第4項、18条の8第5項)と規定しており、「調査」と称して公権力が家庭教育に介入することとなる。


このような規定は、2008年6月に成立した「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律」が、民間における自主的かつ主体的な取組によるインターネット利用の適正化を求めているのに反し、公権力の介入を進めるものであって、条例制定権の限界から見ても問題がある。


また、「児童ポルノ」規制に関しては、実在の被害者がいない図画(いわゆる「児童ポルノコミック等」)をも規制の対象としようとするものであり、表現の自由に対する重大な危険をはらんでいる。


われわれの社会が真に子どもを守ろうとするならば、子どもが人権・権利の享有主体であることを確認した上で、子どもの人権侵害のおそれのある行為・社会事象をどう防止し、子どもの人権をよりよく保障するか、という視点を持つことが必要である。そのためには、現在想定されているような条例案の成立を目指すのではなく、現行の青少年健全育成条例そのものを見直し、正面から子どもの権利保障を謳う「子どもの権利条例」を制定し、子どもの人権保障を全うするという視点で、インターネット利用の適正化や「児童ポルノ」規制のあり方も含め、十分に議論を尽くして検討されるべきである。


2010年(平成22年)5月21日


日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児